仮想温泉ぷろめてうす

 

「自分はお通じが良いから不要であります」「そのカンチョウではない!」

中学生の頃、自宅の本棚に『のらくろ自叙伝』という立派な布装の本があった。昔から時代とズレた妙なものをほじくるのが好きだった私が小学校の図書館から戦前の『のらくろ』の単行本を借りてきては読んでいるのを見た親が、たまたま本屋に並んでいるのを見て買ってくれたものだと思われるが、これはおよそ子供向けではない、今考えると「大人として戦後日本を生きている、かつてののらくろファンの少年たち」に向けて書かれた、のらくろ本人の回想録の体裁をとった青春小説なのだった。「以前の漫画は、のらくろの軍隊生活を題材に漫画家が面白おかしく描いたものであって、彼自身の振り返る青春時代はあんなお気楽なものではなかった」という設定のもと、序文ではのらくろが、本筋である猛犬連隊での立身出世物語をそっちのけに、「たい焼き屋の一人娘のお銀ちゃんにフラれたこと」ばかりを延々と嘆き続け(ただし本編を読んでも彼女については「色白で気立てが良い」程度のことしか書かれておらず、どこがそんなに魅力的だったのかは皆目分からないのだが、これはこれである意味リアルな気もする)、お目付役として出てきたブル連隊長に叱られている。本編に入っても犬軍・猿軍の戦闘(というか塹壕越しの睨み合い)が双方疲れ切った状態のまま何ヶ月もグダグダ続く一方、国境地帯の山奥では犬の村と猿の村が昔からの縁でけっこう仲良くやっている描写があったり、「間諜」として潜り込んだ猿の町で親切にしてくれた後家さんの一杯飲み屋もろとも(?)巨大武器庫を爆破して逃げたり、酒保でビールを飲んでは兵器産業の都合のためだけに定期的に戦争が起こる現実を嘆く大学出の士官がいたり、除隊して民間人になった新兵時代の戦友や当時の鬼軍曹とのほろ苦い再会があったり、兵器産業と癒着してクーデターを起こそうとした幹部将校が粛清される描写があったり、そのドサクサに紛れて問題児の部下まで都合よく射殺してしまったり、70年代ニューシネマ的な組織や社会への幻滅に加えて田河先生個人的に何があったんですかと尋ねたくなるほどのアダルトな物語であった。しかしなんでこんな本を急に思い出したのかな。例によって記憶を頼りに書いているので細かいところを真に受けてはいけません。
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