高砂名画座
特集・大宇宙のバカ
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"Space Ghost Coast to Coast" (略してSGC2C)は、アニメのキャラクターが生身の有名人をインタビューする、一種のトーク番組である。形式だけは「徹子の部屋」みたいだが、実はほとんど逆方向に暴走していると言ってよい。毎週結構ギャラの高そうなゲストを呼ぶのに、受け答えに全く脈絡がなかったり悪口合戦になったりロクに喋らせなかったり放置してスタジオを出てしまったりと、知らずにチャンネルを合わせたりすると自分の正気が心配になるほど無茶苦茶な世界なのだ。正直なところ言葉だけでこの雰囲気を伝えることは不可能なのだが、せっかく気合いの入ったトランスクリプトも大量に公開されてることだし、例のごとくやってしまうことにする。お暇な方のために、さらなる深みへのリンクも用意しておいた。
公式サイト: http://www.cartoonnetwork.com/spaceghost/
代表的ファンサイト: http://www.snard.com/sg/
レギュラー紹介
スペースゴースト
Space Ghostマスク・アゴ・筋肉・マント・ピチピチの薄着…と基本に忠実なアメリカン・スーパーヒーロー。尻の筋肉だけでほうれん草の缶を開けられるのが自慢。元は60年代中頃のアニメシリーズ「スペースゴースト」(邦題「宇宙怪人ゴースト」)の主人公だったが、直前にヒットした実写版テレビシリーズ「バットマン」の露骨なパクリキャラだったせいもあって、当時から人気はイマイチだったらしい。番組終了以来三十年近く不遇をかこっていたところを、トーク番組の司会者として大抜擢される。ちなみに彼の前に司会を務めていた、同じく二流ヒーローの「バードマン」は、あまりに無能なのでクビになった。
特徴:頭が悪い。性格も悪い。おまけに幼稚。ベトナム戦争以前の時代で脳が停まっているので、ゲストがどういう人物なのか知らずにインタビューしていることも多い。自分は常に正しく、宇宙のナンバーワンだと思っている凄まじい自信家だが、現実とのギャップは常にひしひしと感じている。それゆえ「バットマン」「スパイダーマン」など、メジャーなヒーローの名前を聞くと、途端に不機嫌になる。もともと脊髄反射と暴力だけで宇宙の平和を守っていたタイプなので、現在はエネルギーを持て余し気味。よくゲストをビーム攻撃したり同僚を破壊したりして憂さを晴らしている。友達がいないことをひそかに悩んでいるが、原因が自分の性格だとは全く思ってないようだ。本名 Tad Ghostal は、あまりにも響きが野暮ったいので「女の子に声を掛ける時とかは隠しといた方がいいね」といつぞやゲストに言われていた。歌だけは無駄に上手いものの、作詞作曲の才能は絶無。声は正しいオヤジヒーロー声。邪悪な双子の兄・Chad Ghostal とは犬猿の仲。
ゾラック
Zorak残虐宇宙カマキリ。元祖「スペースゴースト」には悪役として出演していたが、今では友人も助手もいないスペースゴーストに拉致され、むりやり番組を手伝わされている。音楽監督兼ツッコミ係として、いつもスタジオの右手でキーボードが組み込まれたブースに座っている。最近は別番組「ブラック・ショー」でもレギュラーになったため、ひそかに独立の機会をうかがっているようだ。
特徴:口と目付きと性格が悪い。趣味は番組進行の妨害とスペースゴーストへの嫌がらせ。ただし暴力では勝てないので、もっぱら濃硝酸の如き声と毒舌で戦っている。常に目や触覚から電波のようなものを出していて、退屈するとゲストの脳を操作して遊ぶ。スペースゴーストにバールで殴られたりビームを喰らったりしてよく死ぬが、けっこうな確率で生き返る。パンクが好きで、ラモーンズの大ファン。スペースゴーストが嫌い。
モルター
Moltar大昔の潜水服のような赤い装備で全身を覆った謎の大男。以前はゾラックと共に悪役だったが、やはり不運にも拉致される。この番組ではディレクターとして調整室からキューを出し、ゲストの登場や各種エフェクトも担当している。身体の大半は金属らしく、いつもロボットアニメのような足音を立てて歩く。実はレギュラー中唯一の妻帯者。スペースゴーストによると、結婚式のビデオは「マトリックスをマルチスクリーンにしたようなアクション巨篇」だったそうだ。
特徴:不幸にして三人の中ではもっとも常識を備えているので、被害者になることが多い。宇宙船が事故ると一人だけ怪我をする。しかも瀕死の状態でスーパーマーケットにつれて行かれ、そのまま食料品売り場の床に放置されたりする。だが、たまに自由に行動すると、この人も十分狂っていることが分かって微笑ましい。金属製の古井戸の底から喋っているような低い声。音痴なので、少しでも歌うと他の二人に怒られる。ヘビーメタルと巨大なナイフを愛する武闘派だが、ビームには勝てないようだ。もちろんスペースゴーストが嫌い。
「切りまくり」
(初回放映 2001年9月2日 ゲスト:ビヨーク/トム・ヨーク)
(番組開始前の調整室。調整卓のモニタ上のトムと話しているモルター)
ト:ありゃ老人向けのサングラスさ。
モ:え、そうなの?
ト:うん。売ってるよ…ダラス空港とかで。
モ:ほほう。
ト:普通のサングラスの上からかけるんだ。(スペースゴースト、一枚のCDを手に登場)
ス:モルター、これを百枚焼いてくれるかね?
モ:それ何?
ス:レイディオヘッドの新作CDだ。
ト:(笑顔が消え、唖然とした表情になる)
ス:(小声でモルターに)おい、彼はもしかしてレイディオヘッドのメンバー…
モ:そう。
ト:(ニヤリと笑って親指を立てながら)どうも。
ス:やあ、ご機嫌いかがかね。(声を潜めてモルターに)この話はあとだ。(わざとらしい大声で)やあ、あれは何だ?(窓辺においてある据置型の複雑な投光器もしくはレーザー砲のようなものに近付く)
モ:(スペースゴーストのあとを追いながら)ああ、あれは…(重い金属音に遮られる)
ス:(モルターにヘッドロックをかけたまま)黙って聞け…CDをコピーしてるのが万一トムにばれたら私はメキシコの刑務所にぶち込まれるかも知れん。
トム:(モニター内で身を乗り出して聞き耳を立てている)
ス:(トムに)何を見てるんだ!君には関係ない話だぞ……つまり…ドラゴンについて話してるんだ。
ト:(笑っていいのかどうか分からず困った顔になる)
ス:(モルターに)私がこれを焼いて検証している間、スタジオでトムの相手をしていてくれ。(遠慮がちに嫌な顔をしているトムに向かって)だから「これ」ってのは…ドラゴンを焼くんだってば!(金属音と共にモルターを離す)
モ:あんた、これの使い方知らないだろう?
ス:モルター、私の巨大な脳はあらゆるメカをイエスかノーかの単純な問題に変換することが出来るのだよ。
モ:だってそれはCDを焼く機械じゃなくて…
ス:(腕のビーム銃を構えながら)モルター、イエスと言うんだ!
モ:……わかった。
ト:招いてくれてひじょーに感謝してるよ、スペースゴースト。
ス:いやいや、なんの、なんの…こいつが動くところを見たいかね?(上の空で返事しつつ投光器のボタンを押すと機械は一瞬光線を発した後、床に倒れて爆発する)
ト:(開いた口が塞がらない)
ス:(炎の傍に仁王立ちで、根拠のない自信に溢れながら)これで二十枚……イエス!!
スタジオにて
モ:(スペースゴーストのデスクまで行き、ファンキーなBGMと共にいつもの土管声を、無駄に景気のいい米国式DJ声に変換しつつ)おおおぅ、イェア!ムォルター・ショーにぃようこそぅ!
ト:(ゲスト用モニター内から)ありがとう、モルター。
モ:ぃいやいやぁ、こちらこそおぅ!私のような世紀の男の隣に、よくぞ座ってくれたッ!
ト:なんか自信満々だね。まさに90年代の男って感じだ。
ス:(画面外から)動け、この!(爆発音。音楽止まる)
ス:(まだ機械が燃えているコントロール室。炎に呑まれながら)ノオ!…ノオ!(スタジオ。スペースゴーストの「ノオー!」という叫びがまだ聞こえてくる)
モ:ぅ嬉しいねぇ、(音楽再開)トム・ヨークさん!あんたは超ベリー面白くて超ベリー冴えてるねぇ!
ト:(笑って肩をすくめながら)ほんとに?
モ:むっっちゃ面白くてむっちゃ冴えてるから…ナイフで勝負しようぜえ!(突然モルターの手の中に炎をかたどった巨大なナイフが現れる。ノリノリの音楽が途切れ、どげどげげがをーーん、と短い戦闘的なギターソロに)
ト:え?
ゾラック:いいぞ!死ぬまでやれ!(炎に包まれたさっきの投光器がスタジオ左手からすっ飛んできて、右手にあるゾラックの楽器に激突。)
ス:(投光器を追うように左から低空飛行で飛び込んできて)そもそもあれはCDバーナーじゃないぞ。(ナイフを持ったモルターを睨んで)何をやっとるんだ君は?
モ:(まだDJ声で)ぶぁんぐみのゥ、司会だぜぃ!
ス:司会にナイフが要るのか。
モ:(いつもの土管声に戻って)まあ…そうだ。
ス:本当に?
モ:(咳払いをすると、ナイフは消えている。DJ声に戻って)いやそのぅ、トムが俺のナイフを見せてくれと言って、ナイフの歌を作ってるところだったんだなぁ!----やっぱり本物のナイフを見ないとだめだから。だよな、トム。(またナイフが現れ、がーぎっ!と短いギターの音。)
ス:(トムに)本当かね?
ト:(首を振りながら)いや。
ス:なに、いい考えだと思ったものでね。ぜひやりたまえ。
ト:(首を横に振って)やだよ。(笑う)
ス:なら私がやろう。(小声で歌い始める)俺はナァァァァイフ…切りぃまくぅるぜぇぇぇ…cutcutcutcutcutcutcutcut…(なぜかハサミの効果音が重なる。チョキチョキチョキチョキ…)(ナイフというかハサミになりきってボソボソ歌いながらスタジオを右往左往するスペースゴースト。あきれて見ているトム)
ト:もしかして…例の…スマートドラッグとかやってる?
ス:いや、私にはスマートドラッグを飲む必要など無いのだ、トム。なぜなら私はそれがどんなものか知らないからだ。分かったかね、トム?
ト:分かった。
ス:だが人がくれるものは何でも口に入れるよ、食べ物であろうとなかろうと。(デスクに戻って腰を下ろす)なぜなら…私は特別だからだ。(トム、笑いをこらえる)分かったかね、諸君。
ト:(うなずいて)非常に。
ス:とにかく…特別なのだ。
ト:それは特別じゃなくて「変」って言うんだよ。(笑う)
ゾ:(画面外から)おい…自分ら何してん?
ス:「自分ら」?(トム、ヒステリックに笑う)
ゾ:おうよ。
ス:どこでそんな言葉遣いを覚えたんだね?
ゾ:ハティスバーグ。(ミシシッピ州の小都市)
ス:ハティスバーグなんかで、何をしてたんだ?
ゾ:いろいろ、な。
ス:ふうん、そうなのか。
ゾ:そうだ。
ス:ふむ、それは面白い。
ゾ:たりめえよ。
ス:トム、面白いと思うかね?
ト:(一瞬の間の後、首を振って)いや。
ス:見たかね、ゾラック、我々には面白くないんだよ。
モ:(調整室のモニターからスタジオを見ながら、例の音楽とDJ声で)いやあぁぁ、ぅ私には超ウルトラ面白いなあぁぁ!
ス:(静かに)モルター…
モ:?
ス:(暗く)それはもういいんだ。
モ:(いつもの土管声で、不服そうに)そうなの?
ス:ああ。
モ:わかったよ…おっ、あんたの奥さんから電話だ。
ゾ:おまえ、嫁さんいたっけ?(笑う)
ス:私に妻はいないぞ。
モ:本人が妻だと言ってるんだ。
ス:いいか、その女に言いたまえ、君は……狂ってると。私がいくら有名でセクシーだからと言って、誰でも私と結婚できるわけではないぞ。私はあの部屋を出る!
ゾ:あの部屋?(長い沈黙。ごぉぉぉぉ…という宇宙な音が聞こえる。ちなみにスタジオ正面の大窓の外はいつも宇宙である。)
ス:諸君、聞きたまえ。(椅子から立ち上がる)黙って聞くんだ。私はナイフについてのヒットソングを持ち、そして…左様、私は結婚している。という訳で、ちょっと時間をくれるかね。
(モニターからトムが消え、一瞬のノイズの後ビヨークに切り替わる)
ス:ありがとう、モルター。(ビヨークに)やあハニー、元気かい?
ビ:(思い詰めた表情で)あなた、硫黄って好き?
ス:硫黄?それは私の好物だよ、知ってるだろハニー。それで電話してきたのかい?
ビ:うん。
ス:(小声で)やれやれ…
ビ:アイスランド語で歌っていい?
ス:いまはちょっとまずいな。すまないが…今私は…私は、取り込んでるんだ…あー、その、宇宙大戦争の最中なのだよ。
ビ:(真剣かつ心配げに)あなたと話すと楽しいの。
ス:あー、うん、そうみたいだね。しかし、その、さっきも言ったけど、この宇宙戦争はどうしようもないんだ、エイリアンがね…
ビ:そうなの?
ス:そうなんだ。だから…今は駄目なんだよ。
ビ:分かった!
ス:だから、あの、平和になったら電話するよ…全宇宙が。
ビ:(間)…うん、鮭と鱒とどっちが好き?
ス:いいかね、私は君を非常に愛しているからそのようなことは…
ビ:(笑顔で)ことは?
ス:そろそろ寝たほうがいいよ。
ビ:(困惑して)わかった…
ス:なぜなら一人の女性を深く愛すると言うことはそういうことだからさ。
ビ:うん。えーとそれから…
ス:私の言うことを信じたまえ、いいね?
ビ:…じゃあ、あなたに向かって歌えばいいの?それとも(カメラを指さす)
ス:モルター!(ビヨークが消え、トムの画面になる。退屈していたようだ。)
モ:あんた結婚したのか?
ス:そうだ。いいかね?あらゆるものは結婚するのだ。動物や蜘蛛でさえ。たとえ彼らがケーキやスーツや結婚式や高価な指輪を持たないからと言って彼らが法的に…えへん…(気まずそうに、小声で)結婚しないというわけではない。(しばしの静寂。宇宙の音。)(いきなりトムに向かって)さあ、私と戦え!
ゾ:愛のない結婚ってやつか。
ス:(ゾラックを睨む)
ゾ:(睨み返す。微かにみよよよ〜ん、みよよよ〜んと触覚の音。)
ス:ふん、しょせん愛とは妥協なのだよ、ゾラック。
ト:(うなずいて)そうそう。
ス:自分の未来についてそれなりの調停案に達することなのさ…メリーランド州バテスダ市の市議会と。
ト:(笑って聞いていたトム、困惑した表情になる。)
ス:……Cutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcut
cutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcutcut
ト:(笑顔でうなずきつつ歌が終わるまで聞いてから)でも…
ス:いいかね、結婚とは自分の部屋でソファーの陰に隠れ、かつ明かりが全部消えて真っ暗になるまでそこから出ないことなんだよ。
モ:奥さんからまた電話。
ス:うむむ…私は爆発したと言ってくれ。大変悲しい出来事であったと。で、最後の言葉は「女房を私のコンドミニアムから追い出せ」だったと。
モ:緊急の用事だと言ってるぞ。
ス:緊急か…つないでくれ。(トムが消え、ビヨークが現れる)
ビ:トイレに行きたいの。
ス:トイレとソファーの違いは憶えてるかね?
ビ:大丈夫。
ス:前回私が怒り狂ったのも憶えてるね?
ビ:匂いが…腐った玉子みたい。
ス:いつも小便をしているカウチのクッションを鍋で茹でたりするからだ。
ビ:そうなの?
ス:それから、君がうちに居たいのなら、(ビームガンを備えた腕を動かしつつ)例のフランス人のトリッキーとかいうDJは追い出してくれ。
ビ:え、誰?
ス:私も知らんよ、君の友達だろう?
ビ:そうそう、ぜひあなたに紹介したいの。
ス:もう奴には会ったよ。奴は例の小便の沁みたカウチの上に住み着いてるだろ。それから新しいビートを聴かせるとか言って他人を連れ込むのもやめさせてくれ。
ビ:子供はみんな喜ぶのに。
ス:(小声で)ハニー、あれは子供じゃなくて、クリームチーズの塊だよ。
ビ:ときどき区別できなくなるのよ、知ってた?
ス:知ってるよ。ああ…深入りする前に知っておくべきだった…
ビ:あなたマスクつけてるけど、気づいてる?
ス:ねえ、ハニー。庭にプレゼントを埋めといたよ。
ビ:そうなの?
ス:ああ。掘り出しに行ったらどうだい。
ビ:(アイスランド語でなにか言う)
ス:わかった…彼に伝えておくよ。(ビヨークと入れ違いにトムが戻ってくる)
ゾ:おい…何を埋めたんだよ?
ス:姑。
ゾ:やるじゃん。
ス:いや、ゾラック、埋めたのは只のベーグルなんだ。最近彼女が「母さん」と呼んできかないんで…
ト:(マグを手に、乾杯しながら)ともあれ落ち着くのはいいことだよ、スペースゴースト。
ス:(自分のマグを持ち上げ)ああ、我々の心臓が止まるまで飲もう。(スペースゴースト、ゾラック、トムはそれぞれ自分のマグから飲む。モルターはマスクの隙間からストローで飲む。スペースゴーストは椅子に深々ともたれて延々と飲み…深い息をつき、また飲み続ける。)
ゾ:ふう……そうだ、あと五分ぐらいでダチが来るから、俺はフケるぜ。
ス:何をしに行くんだ?
ゾ:ゴミ捨て場で電球壊す。
ス:そうか。私も一緒に行こう。
ゾ:あー…(溜息)駄目だ。お前はダチじゃない。
ス:我々には色々共通点があるじゃないか。えーと、君の親父さんはいまだに鉄ちゃんだろ、例えば。
ゾ:違う。
ス:ふむ…最近彼は何のマニアなんだ?
ゾ:あのな、俺のダチが来たらな、お前は一人で空を飛び回るとか、透明になって遊ぶとかしてりゃいいだろうが。知ったこっちゃねーが。台所へでも行け。
ス:いや一緒に行く。
ゾ:駄目だ!
ス:だったらフケさせるわけにはいかん。
ト:あのさ、あんたのこのへんの…(自分の鼻と口のまわりを指さしながら)
ス:なんだね、トム?
ト:(同じ動作をしながら)それ、何?
ス:(溜息)
ト:このへんの。
ス:(いらいらして)これは口だよ、トム。
ト:いや、なんでもない…
ゾ:ダチが来た。じゃあな!
ス:(叫ぶ)待たんか!
ゾ:(静かに)ダチが来てるんだよ。
ス:(静かに)そうか…悪かったな。(机にもたれてがっくり肩を落とす)
モ:おい、また奥さんだ。(ゲスト入れ替わり)
ス:(静かに)彼らは行ってしまったのか?
ビ:うん。あなた、まだあんな人たちと付き合ってるの?
ス:(椅子に座り直して)い、いや、まあ親友ってやつだからさ、ほどほどにしてるさ…君と結婚したのは、彼らと距離を置くためで…
ビ:呼んでくれてありがとう。
ス:どういたしまして。私は呼んでないけどな。ところでハニー、私はカマキリ友達のゾラックと外出してガラスを叩き割りたいんだが、いいかい?
ビ:え、誰?
ス:ゾラック。ほら、仕事仲間の。
ビ:ねえ、うちに居なさいよ。
ス:あのね、私には外出が必要なんだ。ああ、これでは牢獄だ!
ビ:絵が浮かぶわー、あなたもわかるでしょ。
ス:うん、分かるよ。(腕のビームガンを構えて)つまり君は何を言いたいんだ?
ビ:えーと…、楽しんできてね。
ス:ああ、そうさせてもらうよ。あと、次はもう君とは結婚しないからな。(トム、ビヨークと入れ替わる)
モ:じゃ、あんたは出かけるのかい?
ス:いや、行ったら女房に殺される。
ト:(せき払いをして、黒い糸屑をつまみあげる)
ス:トム、それは何だね?
ト:虫。
ス:(小声で)ああ、まったくもう…
モ:また奥さんだ。
ス:八時までには必ず帰ると言っといてくれ。
ビ:(赤毛の鬘と新しい衣装でモニタに登場)
ス:やあ、ハニー!
ビ:(笑う)
ス:何だか違うね!
ビ:うん、ちょっと気分を変えてみたの。
ス:ふむふむ。ところでハニー、信じられんことだが、ヘヘヘ、また宇宙戦争が起こったんだよ。信じられないかも知れんが…その場所ってのが…あの…ゴミ捨て場の近くで…えーと…
ビ:それで?
ス:今度こそ平和になるといいんだけどね。ところで君の話をとても聞きたがってる奴がいるんだ。
ビ:誰?
ス:モルターって言うんだけどね。
モ:(苦悶の唸りを上げる)
ス:ここに座ってくれ、モルター。(ビヨークに)氷について君が知ってることを洗いざらい聞きたいってさ。
モ:(スペースゴーストのデスクに近付きつつ)ききたくねえ。
ス:いや聞きたいはずだ。
モ:いや聞きたくない!
ス:いや君は聞きたいのだ。(腕のレーザーバンドを構え、発射ボタンに指をかける)
モ:(間)…ああ聞きたいよ。
ビヨーク:私はアイスランド出身だからそういうことには詳しいの。アイスランドの人口はたったの28万人で…
(話している隙にスペースゴーストは飛び去る)
モ:(つまらなさそうに)ほう、そうなんですか。
(屋外。背景は実写、いかにもスタジオの近所で撮ったような、ありふれた住宅地のゴミ捨て場。スペースゴーストは、ゴミコンテナのそばに立っている。ゾラックが画面奥に腰掛けている。)
ス:ガラスはどこにあるんだ?
ゾ:あー…もう全部壊した。疲れたぜ。
ス:ふむ、ここに段ボールの箱がいくつかあるな。綺麗にまとまるように分解しようではないか。
ゾ:つまんねーよ!
ス:楽しみだけではいかん。これは市民としての義務だ!
ゾ:俺はお前の持ってるものが欲しいんだ。(小声で)女が欲しい。
(携帯電話の音。スペースゴーストの胸に仕込まれた通信機が点滅している。)
ス:ちょっと待ってくれ。
ゾ:女がいたら黒ミサ用に内蔵売れるしな。
ス:ゾラック、頼むから黙っててくれ。
ゾ:金も欲しい。
ス:(通信機に向かって)こちらスペースゴースト胸部通信機。
ゾ:聞いてんのか、コラ!
ビ:(電話越しに)あのね、私、三角形の大ファンなの。
ス:うむ。実は私はチャック・ノリスの大ファンだ。彼は『デルタフォース』に出ていたし、デルタってのは三角形だ。
ビ:私が十一歳の時に公開された奴ね。
ス:そう!よく知ってたねハニー、こうしてチャックのことを話してると、また君と結婚したくなっちゃうよ。
ビ:ほんと?
ス:ベータ車庫だと、結婚一回につき20%オフになるからね。
ビ:(長い間)ところであなた、なんて名前だっけ?
(また実写の背景。大きな都市と河を見下ろす丘の上に(雑な合成で)立つスペースゴースト。彼の左側に、ビヨークの映ったモニタも、存在しないはずの天井からぶら下がっている。オルガンの教会音楽。)
牧師:…病める時も健やかな時も、死が二人を分かつまで?
ビ:誓います。
牧:そしてあなた、スペースゴーストよ、この女性を娶る…
ス:(いきなりモニタを殴って画面左にすっ飛ばす。)オーノー!(間)
ゾ:(画面右から現れてスペースゴーストを殴り、画面左にすっ飛ばす)オーノー!
モ:(画面右から現れてグフッと笑いながら)オーノー!(ゾラックを殴ろうとする)
ゾ:えーかげんにしなさい。
(アヴァンタイトル:スペースゴーストが愛機ファントム・クルーザーで、自己啓発テープを聞きながら宇宙を飛んでいる)
エコーその他、様々なエフェクトのかかったサイバーかつニューエイジな女声(以下「声」):…そして何故現在スーパーヒーローたちが人生の岐路に立っているのかは容易に分かるでしょう。成功を望みつつも、伝統的なスーパーヒーロー像に囚われ、今日の社会構造とますます食い違いが出てきているのです。
スペースゴースト:ふむ、それで…
声:これは、スーパーヒーローが成功するための七つのルールです。良かったら私の後について繰り返してください。
ス:よろしい。
声:その一。私の人生は私が決める。
ス:私の人生は私が決める。
声:その二。私のエネルギーは、私が自分で選んだもの。
ス:私のエネルギーは、私が自分で選んだもの。
声:その三。誰もあなたに無理矢理劣等感を抱かせることは出来ません。
(ファントム・クルーザーが怪しいノイズを発し始める)
ス:むっ、何だこれは?
声:その四。あなたがいつ栄光の時代を迎えるかは、誰にも分かりません。
ス:????おいおい、いい子だから今日は勘弁してくれ。だめだ、操縦不能か。(船体が猛烈に揺れ始める)
声:その五。人生の一瞬一瞬を大切に味わいましょう…
ス:黙れ、この馬鹿テープめ!(オープニングテーマに合わせて流れる、一昔前のやたらテカテカしたオモチャっぽいCGによるスペースゴーストの主観映像:小惑星群の間を擦り抜け、クレーターだらけの小惑星にポツンと立っている放送局へ。裏に回ったと思うと壁を突き破って侵入。沢山の厳重なドアを抜け、何度も曲がり、障害物を躱し、デスクで居眠りしている熊のような守衛の前を抜けてスタジオへ。)
ス:(スタジオ内。透明状態から颯爽と姿を現しつつ)一般市民諸君、ご機嫌いかがかな!私がスペースゴーストだ。今夜のゲストはアカデミー賞俳優、チャールトン・ヘストンだ。
ゾラック:俺は今日、虫の居所が悪いぜ。
ス:それは結構。
モルター:俺も。
ス:ほう、そうかね。
モ:覚悟しろ。とにかく機嫌が悪いんだからな!
ス:それは良かった。
モ:もう沢山だ。もうこんな仕事嫌なんだよ。
ゾ:そうだ!やめちまおうぜ!
モ:あんたが何を言っても無駄だからな!
ス:承知した。
ゾ:俺たちのペースに引きずり込んでやるぜ!
モ:そうだ!絶対そうしてやる。あんたが嫌だと言っても…
ゾ:自分の無力を思い知れ!
モ:(邪悪な笑い)そうだ!
ゾ:いいぞ!
ス:…私のデスクに行ってもいいかね?
ゾ:やれるもんならやってみな。
ス:(透明になってデスクまでテレポートする)さあ着いたぞ、私の席だ。
モ:悪運の強い奴め!
ゾ:次も出来るとは思うなよ。
ス:悪役の諸君、私の言葉を聞きたまえ。
ゾ:やなこった。
ス:君たちが何をしようと、私の月を軌道から外すことも、満ち満ちる私の幸福を損なうことも出来ないのだよ。
モ:何の話だ?
ス:大宇宙の存在・スペースゴーストは今…完璧で…静かだ…
ゾ:アホか!
ス:…まさに明鏡止水。諸君、我らのハートを同期させようではないか。
ゾ:やだ。
ス:モルター、私はいつゲストを迎えてもいいぞ。
モ:(ブツブツと)あいよ。(モルターが調整卓のレバーをガチャンと入れると、チャールトンの映ったモニターがスタジオの天井から降りてくる)
ス:ようこそ、一般人よ。
チャールトン・ヘストン:(降りてくるモニタの中で)今晩は、スペースゴースト。
ス:さあ、すべての人々に対して君が何者であるかを示すのだ。
チ:(沈黙)
ス:さあ。
チ:私はチャールトン・ヘストン。
ス:そう!我々が初めて迎えるアカデミー賞受賞者だ!
チ:そうなの?
ス:そう。
チ:わお。
ス:私もこの番組の仕事でアカデミー賞を貰えると思うかね?
チ:うーむ…率直に言ってもいいかね?無理だ。
ス:私もあのトロフィーが欲しいんだよ、チャールトン。
チ:なるほど?
ス:君のトロフィーが欲しい。持って来たまえ!
チ:わかったわかった。
ス:うおおおおお!!やったぞ!私を見ろ!オスカー受賞者スペースゴーストだ!ぃやっほう!
声:(虚飾を求める者は自分を讚えますが、自己実現を果たした個人は他人を讚えます)
ス:あ、そういうものかね。…うん、チャック、君もなかなかのもんだよ。私は…ところでチャックと呼んでいいかい?
チ:もちろんいいとも。
ス:「チャっくん」は?
チ:どうしてもと言うなら。
ス:いやいやいや待て待て待て、「チェストン」はどうだ?つまりだな、君のファーストネーム「チャールトン」と名字を融合してだね…
チ:あー、駄目だ。それは断る。
ス:(間)「駄目だ、それは断る」なんて言うのは生き方として良くないんだよ。いつ何時でも「イエス、大いに結構」と言うように心がけないと。
チ:ああ、なるほど。
ス:「不可能だ」という言葉は本来、間違っているのさ。あれは本当は「ふっ、可能だ♪」(どアップで自信に満ち溢れたスマイル。キラーン!と効果音付きで輝く白い歯。)という意味なんだよ。
チ:……君は、いつも一人なのかい?
ス:敵ならここにも何人かいるさ。(だんだん小声になりつつ)だが……ご存知の通り…私には、友人が………いない。
モ:その通り!
ゾ:誰が友達になるかってんだ!
モ:もしあいつの友達かと訊かれたら、俺は力一杯 "No!" と言うね。
ゾ:そういうこと!
チ:(スペースゴーストに)寂しくないかね?
ス:パーティーに行くさ。
チ:あ、パーティーね。
ス:頭の中の。
チ:うん、君は正体をそこに隠しているような気がする。
ス:私の頭の中では年中パーティーをやっているのさ。ときどき近所から苦情が出る。音楽のボリュームを下げろってね。だがそれは出来ない相談だ。なぜなら私の頭にはボリュームのつまみが付いていない。
チ:いやいや、分かるよ。私は…うん、それはそれでいいんだ。つまり…話題を変えようじゃないか。
ス:(中空を見つめながら)え?なんだって?パンチが切れた?分かった、すぐ行くよ。
*パンチ…パーティーには付き物の、果汁系の甘ったるいソフトドリンク。前のバイト先ではパンチボウルというガラス製の巨大なドンブリのようなものに、市販の「パンチ」(一応オレンジ系だが、酸味がほとんど無くてウルトラくそ甘)とジンジャーエール(これも十分甘い)を一対一で注ぎ、豪快に氷を入れてかき混ぜていた。これをガラス製の小さなコーヒーカップのようなもので何杯も飲むことによって多くのアメリカ人は談笑や舞踏に必要な糖分を得るようだ。それゆえパーティーの最初から最後まで、パンチだけは切らさぬことが肝要である。
モ:おい、誰と話してるんだ?
ス:いやお待たせ。実は私には無限のパンチを供給する能力があるんだ。
モ:俺にもちょっとくれ。
ス:パーティー専用だ。
チ:ふむ。
ス:私の頭の中の。
ゾ:(溜息)ちゃんとインタビューしろよ!ス:君は十分な酸素を摂取しているかね、チャック?
チ:もちろんだ、いろんな大気の中で上手く呼吸できる体質でね。
ス:猿の惑星でも?熱い猿ほど香ばしい匂いのするものはないらしいね。
チ:あの映画で変だったのは、ランチの時はゴリラが全部同じ食卓に座って…
ス:(笑いだす)
チ:いや冗談じゃなくて、本当に。
ス:なるほど?
チ:ゴリラは全部一つのテーブルに座って、チンパンジーは全部別のテーブルに座って、オランウータンも別のテーブルに座るんだ。
ゾ:(チャールトンが喋っている間に雑音を立て始める)あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
ス:(ゾラックに)おい、やめたまえ!
チ:それで、人間は…
モ:(チャールトンのセリフにかぶせて)ご゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
ス:やめないか!今日は助手達の機嫌が悪くて済まないね、チャック。
チ:ああ、そうみたいだね。
ゾ:(雑音を出し続ける)
モ:(上に同じ)(雑音の中での会話)
ス:今日はずっとこの調子なんだ。
チ:ああ、よく分かるよ。
ス:一緒に深呼吸してくれ、チャールトン。
チ:わかった。
ス:(深く息を吸い込み、そして吐き出しながら)嵐の日もあるさ。
チ:ふむ。
声:(賢明な人は混乱を避けて通るものです)(しかし雑音は収まらない)
ス:うおおお!(我慢できなくなって腕のビーム発射装置でゾラックを狙う)
ゾ:あ゛〜〜〜〜!忘れるな、復讐は弱者が逃げ込む罠だぜ。
声:(ゾラックの言う通りです、スペースゴースト。)
ス:一発だけ撃たせてくれ。
声:(いけません、争いの次元を越えるのです。)
ゾ:な、「声」もそう言ってるだろ。
声:(あなたはまだ努力が足りないのです。)
ス:頼むか…
声:(駄目です。)
ス:一ぱ…
声:(駄目です。)
ス:(溜息)分かったよ。
チ:(ゾラックにビームガンで撃たれながら)こ、こら、やめろ、やめろったら…
ス:この緑色の化け物め!(ゾラックにビームを放つ)
ゾ:おい、なんだ、やめ…(爆発する)
声:(復讐は弱者の逃げ込む場所です。)
ス:(片手で顔を覆いながら)分かってるさ。
ゾ:(黒焦げになって)(咳)バーカ!(咳)ス:しょせん存在とはすべてカオスなのだよ、チャック。力を有する者はこれを理解せねばならん…
チ:ふむ。
ス:そして烏合の衆の頭上に鷲のごとく君臨するのだ。
チ:わお。
ス:爪を剥き出し、いつでも襲いかかれるように。
チ:非常に鋭いね、スペースゴースト。私はまさか…
ス:私がニューエイジの精神を備えているとは思っていなかったのかね?ふふ、驚きたまえチャック、(椅子から立ち上がってマッチョなポーズを決めつつ)私は90年代の男なのだよ。
チ:君にはあるかね、その…
ゾ:(画面外から)才能?
チ:…何といえばいいか…
ゾ:身分?知性?
チ:正式な教育を受けた経験が。
ス:「正式な」とはどういうことだね。
チ:いや、べつに…
モ:(調整卓のレバーを動かすと、チャールトンが早送りでキュルキュルと喋り出す)
ゾ:ゲシャシャシャシャ…
モ:ごはははは…
ス:ふむ、大人の意見だ!
ゾ:スピード落としてみろ!ブキミな声になるぞ!
モ:(再びレバーを動かす。チャールトンが牛のよだれのように喋り出す)
ゾ:ゲシャシャシャシャ…
モ:ごはははは…
ス:(のろのろと動くチャールトンの口を見て)おい、あの歯を見ろ!待てよ、あれは…
ゾ:ほうれん草だ!
ス:(モニタ上のチャールトンにビームを放ち、通常速度に戻す)君、デンタルフロスは使わないのかい、チャック?
チ:ばれたか。たまにしか使わんよ。
ス:どうだ!私はフロスを使ってない口臭は二マイル向こうからでも嗅ぎ分けるのだ。私の超能力の一つだよ。
チ:うむ、わかった、わかった、もっと規則的にフロスを使ったほうがいいのだな。
ス:私はこの能力についてはあまり話さないんだ。あまり褒められた能力じゃないからね。しかしそれでも私の能力の一つではある。
チ:あー、君は、完璧な英語を話すが、読むことは出来るかね?
ゾ:(画面外から)あのバカに出来る訳ないじゃん。
ス:テープで売ってる朗読本は好きだよ。
チ:駄目駄目駄目駄目、そんなんじゃ駄目だ、シェークスピアはどうだね?
ス:テープの本はどうだね?
ゾ:駄目。
チ:駄目だよ。シェークスピア、これに尽きるね。シェークスピアを知ってるだろ?
ゾ:しらねー。
ス:会ったことはないね。
チ:そうじゃなくて…(手で顔を覆いながら)彼の書いたものは知ってるだろ。
ス:私の育ったところに劇場はなかったのだよ、チャック。労働は大変だった。一日中網を繕ったり、魚の鱗を取ったり。魚はどんな部分も無駄にしないんだ、チャック。丸一匹、全部使うんだよ。
チ:それは本当かね?
ス:(笑う)もちろん冗談さ!
チ:はあ。
ス:(笑う)宇宙で漁業とはね!ところで訊きたいんだが、「十戒」の続編に出ることは考えたことがあるかね?
ゾ:アホ…
チ:いや、ないよ。
ス:続編は撮らない主義なんだね?
ゾ:そういう映画じゃないだろ、バカ。
チ:十戒なんだから、あれ以上増やせないよ。
ゾ:汝、人を嗅ぐ前に己が性格を何とかしやがれ。
ス:(笑う)汝、人を嗅ぐ前に己が性格を何とかしやがれ。
ゾ:(嘲笑)おまえのこったよ、間抜け。
チ:あー、その…
モ:汝…ためらうなかれ。
チ:最初の十個にこだわりたいんだよ私は。
ゾ:汝、古い戒律にこだわるなかれ!
ス:ゾラックよ、これ以上戒律を増やすならば汝はビーム攻撃されるであろう。
モ:ゾラックを攻撃するなかれ、さもなくば我を攻撃することとならん!
ス:おい、みんな落ち着くんだ。
モ:汝落ち着くなかれ。
チ:これはどうかと思うんだが…
モ:汝ためらうなかれ!
ス:(モルターをビームで撃つ)
モ:(モニター越しにビームを喰らって、調整室の床に仰向けに倒れたまま)ぐがあああ、畜生…ゾ:あーあ、やっちまいやがった!
モ:もう口きいてやらん攻撃、開始!
ゾ:もう一言もしゃべらねえぞ!
ス:大いに結構。
モ:現時点をもって、諸君…沈黙だ。
ス:(誰かがなにか言うのを待っている。大窓の向こうから聞こえる、ごぉぉぉぉ…という宇宙の音。)
ゾ:(にらめっこのような表情で沈黙。触角から出る電波のかすかなノイズ。ときおり巨大な目のまばたく音。)
ス:おいおい君たち、本気かね。(誰も何も言わない)なあ、なにか言ってくれよ!
ゾ:(さっきと同じ絵で沈黙)
ス:なんか言えったら!
モ:(鉄塊のごとく沈黙)
ス:チャック、まさか君まで…
チ:(黙ってうなずく)
ス:ええい、全く!(しばし考えて)みんなアイスクリームは欲しくないかね?ゾラック?アイスクリームだよ?
ゾ:(さっきと同じ絵で沈黙)
ス:私のおごりだよ、モルター?
モ:(巌のごとく沈黙)
ス:(ゆっくりと、誘惑的な声で)ピスタチオ。バター胡桃…
モ:(石像のごとく沈黙)
ス:ガムは要らんかね?
ゾ:(反射的に)ガ…!!!(すぐ我に返り、慌てて目をそらす)声:(何をしているのです?)
ス:(静かに)沈黙の儀式だ。
声:(そんなことをしている時間はありません。すぐにフーバーダムを破壊しなさい。それがあなたの運命なのです。)*フーバーダム:コロラド川の巨大ダム。ネバダとアリゾナ州にまたがる。
ス:もし捕まったら?
声:(あなたはスペースゴースト、万人に愛されるスーパーヒーローです。誰があなたを疑うでしょう?)
ス:そうだ、私はスペースゴースト!これぞ我が運命!
声:(さあ急ぎなさい!)
ス:パンツはどうしよう?
声:(なんですって?)
ス:わ、わ、私のパンツだ!
声:(あなたのパンツなら問題ありません。さあ早く!)
ス:ちょっとだけ。チャールトンにさよならを言っていいかい?
声:(やれやれ、誰かに先を越されてもいいんですか?)
ス:わかったわかった!(モニタに向かって)あの、チャールトン、私は行かねばならん。子供たちをよろしく。ネネ、ネバダ州以外の。(しどろもどろ)
チ:オーケー、スペースゴースト。(手を振る)任せてくれ。
ス:(飛び去る)
(空撮。緊迫した音楽とともに、空からフーバーダムに迫る。)〜ここでコマーシャル休憩〜
(空撮。凄まじい水害の映像。水浸しの住宅地。屋根を残して泥水に沈んだ自動車。かすかに聞こえるパトカーのサイレン。)
ス:(デスクに舞い降りる。すでに番組は終了して無人のスタジオ。)えーと、諸君、ご機嫌よう。わ、わ、私は逃げねばならん。(また飛び去る)
(画面は黒くなり、スタッフロールが始まる。以下、音声だけで進行)
(タイヤを軋ませて到着するパトカー。ドアの開く音。)
警官:(拡声器で)そこのお前!
ス:人違いだ!
警:さあ、ここに来い。さあ、どうしてほしい?
ス:(揉みあう音)ぐわっ!
警:自分の身体から手を離せ。
ス:運命だったんだ、分かってくれ!
警:次はないぞ。腰から手を離せ。
ス:これは武器じゃない、透明化ベルトだ。
警:分かった分かった。だから大人しくしろ。
ス:君らには大義というものが見えていない!
警:暴れるな。分かったか?
ス:政府とメディアに目を潰された哀れな犬どもめ!
警:逆らうなと言ってるだろう。
ス:君たちは全く分かっとらんのだ。
警:足を広げて、車に手をつくんだ。ベルトに触るな。
ス:わ〜〜〜〜ん!!!(手放しで泣き始める)
警:君には黙秘の権利がある。無駄口を利くと法廷で不利になるかもしれんぞ。君には弁護士を求める権利がある。こら、マントで顔を隠すな…
《第五十三話・終わり》
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