燃える。巨大な炎。影のように浮かび上がる…蝙蝠の紋章。獣の唸り。スクリーンを闇が埋め尽くす。
場面転換
日中。カメラはゴッサム・シティ繁華街の高層ビル群の上を移動し、あるオフィスビルの窓に近づき…不意に窓が砕け散って、その中には…
屋内。高層ビル。日中。
道化師のマスクを付けた男が手にした消音機付き拳銃は煙を上げながら薬莢を吐き出す。この男が「ヤクチュウ」だ。彼はもう一人の男、「ハッピー」を振り返る。彼も道化師のマスクを付け、ワイヤー発射装置を持って進み出る。通りを挟んだ少し低いビルの屋上に狙いをつけ、ワイヤーを撃ち込む。通りをまたぐ橋となったワイヤーにヤクチュウはカチリと金具を取り付け、まず道具の詰まった大きな袋を対岸へと滑らせ、続いて自らも窓から跳び出し…
屋外。高層ビル。日中。
空中を渡る。目もくらむ奈落を見下ろしながら、二人の男がワイヤーを滑り…通りの向こうの少し低い屋上に着地する。
屋外。ゴッサム繁華街。日中。
私たちに背を向けて街角に立つ男。手に道化師のマスク。そばにSUVが来て停車する。男は乗り込み、マスクを付ける。車の中には…道化師のマスクを付けた男がもう二人。
ブータレ
三人そろったな。やるぞ。
自動小銃に装弾していたもう一人の道化師が顔を上げる。
グヒヒ
これで全員か?たった三人?
ブータレ
屋上に二人いる。仲間が多いほど分け前も減る。五人もいりゃ沢山だ。
グヒヒ
六人さ。計画を立てた奴を忘れるな。
ブータレ
ああん?手を汚さずに上前をはねるか。ふざけやがって。だからジョーカーってんだな。
ブータレは銃の安全装置を外す。「マヌケ」が車をゴッサム第一国立銀行の前に停める。
屋外。銀行屋上。先刻の続き。
ヤクチュウが金梃を使って配電盤のパネルを外し、建物内部への通路を開く。
ハッピー
あいつ、なんでジョーカーって呼ばれてんだ?
ヤクチュウ
いつも舞台化粧をしてるって言うぜ。
ハッピー
化粧?
ヤクチュウは青いクラス5ワイヤーの太い束を取り出す。
ヤクチュウ
ああ。相手をビビらせるんだと。戦いの化粧みたいなもんかな。
屋外。銀行。先刻の続き。
ブータレ、グヒヒ、マヌケが車を降りて、自動小銃を手に銀行に乗り込んでゆく。
屋内。銀行。日中。
警備員が顔を上げる。ブータレが天井に向かって発砲する。利用客の悲鳴。グヒヒが警備員をたたきのめす。
ブータレとマヌケが人質をまとめている間に、窓口係の一人がカウンターの下に隠された警報機を押す。音が出ないタイプだ。
屋外。屋上。日中。
ヤクチュウの携帯が警報に反応する。
ヤクチュウ
来たぞ。無音警報だな。(ボタンを押す)よし、ブロックしたぞ。しかし変だな。911じゃなくて、だれかの個人電話に通報しようとしてた。
彼の後ろで、ハッピーが消音銃を構える。
ハッピー
何かあったのか?
ヤクチュウ
いや、なにもない。ここはもういいから、中に入るぞ。
ハッピーが発砲する。ヤクチュウはドサリと倒れる。ハッピーはヤクチュウの道具袋を拾って、建物内部に通じるドアをこじ開け…
屋内。非常階段。銀行。日中。
…非常階段を駆け下りて地下室へ向かう。バーンとドアを開け…
屋内。地下金庫。銀行。日中。
そこで巨大な金庫と対面する。
屋内。ロビー。銀行。日中。
整列させられた人質にそってマヌケとブータレが歩く。一人一人に、マヌケが袋から取り出した何かを手渡している。手榴弾だ。続いてブータレが、ピンを引き抜いてゆく。
ブータレ
分かると思うが、ちょっとでも手を離したらドカンだぞ。
銃声。グヒヒが吹き飛ばされる。ブータレとマヌケは物陰に飛び込む。支店長がショットガンを手に、オフィスから出てくる。手榴弾を必死に握ったまま、人質たちが蜘蛛の子を散らす。
屋内。金庫室。銀行。日中。
ハッピーがドリルを金庫に取り付ける。先端が回転を始め、金属のドアに喰い入ってゆく。不意にドリルを電光が走り、ハッピーは床に吹き飛ばされる。
屋内。ロビー。銀行。日中。
ブータレとマヌケが物陰で息を潜めているうちに、支店長がもう一度発砲する。
ブータレ
あと三発か?
マヌケは二本指を立てる。ブータレが身を縮めて散弾を避ける。支店長がまた撃つ。そしてもう一発。ブータレはマヌケを見る。マヌケは頷く。ブータレは物陰から跳び出す。
支店長がまた一発。鹿撃ち用の散弾が肩に食い込み、ブータレはうめき声を上げ…倒れる。とどめを刺そうと支店長が近づく。片手で新しい弾丸を探りながら。マヌケが立ち上がり、支店長を撃つ。
マヌケが支店長の落としたショットガンを拾う。ブータレは自分の傷を調べる。大したことはない。何とか立ち上がる。
ブータレ
この野郎、数も数えられないのか?
マヌケのマスクの顔がブータレを見下ろす。ブータレは奥の階段へ向かう。マヌケはショットガンに新しい弾を装填し始める。
支店長
お前たち、誰を相手にしてるか分かってるのか?どうせお前ら皆殺しだ。
マヌケは支店長を見下ろす。何も言わない。
屋内。金庫室。銀行。日中。
ハッピーが金庫のドアのそばにいる。裸足だ。脱いだスニーカーに手を突っ込んで、歯車を回そうとしている。ブータレが入ってくる。
ハッピー
5000ボルトの電流を流してやがる。どういう銀行だ一体?
ブータレ
ギャング御用達さ。やっぱりジョーカーは評判通りの気違いだな。
ハッピーは肩をすくめる。ボルトを掴んで回す。
ブータレ(続けて)
警報担当はどうした?
ハッピー
用が終わったら殺せってボスに言われたんだ。そのぶん分け前が増える。
ブータレ
面白い。俺も似たようなことを言われたんだ。
ハッピーが凍り付く。ボルトがカチリと回って、重い音を立てて大金庫のドアが開く。ハッピーは必死に武器を取り、向き直ったとたんブータレに撃たれる。ブータレはハッピーの死体をまたいで大金庫に入ってゆく。
屋内。大金庫。銀行。日中。
人の頭より遥かに高く、札束がぎっしりと積み上げられている。
屋内。ロビー。銀行。日中。
ブータレがロビーに戻ってくる。札束が詰まった大きな鞄をいくつも持って苦労しながら。ブータレは鞄をドサドサと落とす。マヌケを見る。笑う。
ブータレ
おいおい、見てないで手伝ってくれよ。荷物が多いんだから。
屋内。ロビー。銀行。日中。
マヌケがさらに二つのダッフルバッグを提げて歩いてくる。うずたかいバッグの山の上に、それらを置く。ブータレがそれをじっと見ている。
ブータレ
そんなに頭のいいやつなら、もっとでかい車をよこしただろうに。
ブータレはマヌケの背中に拳銃を突きつける。
ブータレ(続けて)
きっとジョーカーはあんたに、積み込みが終わったら俺を殺すように言ったんだろう。
マヌケ
(首を横に振って)いや。おれはバスの運転手を殺すんだ。
ブータレ
バスの運転手?バスって…
マヌケが何歩か後ろに下がる。ドカン!人質が悲鳴を上げる。黄色いスクールバスの後部が、銀行正面の壁を破って突入し、ブータレを窓口に叩き付ける。
マヌケはブータレの銃を拾う。もう一人の道化師がバスの後部ドアを開ける。マヌケは彼を撃つ。そしてバッグをバスに積み込む。負傷した支店長がそれを見ている。遠くでサイレンの音。
支店長
してやったりってところか?お前だって雇い主に殺されるんだろうに…
マヌケはゆっくりと首を横に振る。
支店長
いや殺されるね。昔はこの街の犯罪者にも信念があった…
マヌケは支店長を振り返る。しゃがんで顔を覗き込む。
支店長(続けて)
誇り。仁義。お前に信じるものはあるのか?お前に…
マヌケは支店長の口に手榴弾を差し込む。紫色の糸がピンにくくりつけられている。
マヌケ
信じてるさ。こうやって死に損なうたびに、人は…
マヌケはマスクを取る。支店長は息をのむ。支店長の背後の割れたガラスに、一瞬うつりこむ切り裂かれた口と道化師のメイク!ジョーカーだ。
ジョーカー(続けて)
…どんどん変になっていくんだ。
支店長が目をカッと見開く。ジョーカーは立ち上がり、ゆらゆらとバスに向かって歩いてゆく。手榴弾のピンにくくりつけられた紫の糸は、彼の上着からほどけていくのだ。ジョーカーはバスに乗り込み、後部ドアを閉め、紫の糸はドアに挟まれ…
屋外。学校。ゴッサムシティ。日中。
子供たちが校舎からあふれ出し、並んで待っているスクールバスに駆けてくる。
屋内。銀行。続き。
バスが出て行くとき、紫の糸がピンを引き抜く。人質たちは悲鳴を上げて支店長から逃げようとする。支店長が恐れおののいていると、プシュッという音がする。手榴弾は爆発する代わりに、赤いスモークを吐き出す。
屋外。銀行。日中。
スクールバスは銀行から抜け出し、通りに出たと思うと、そっくりの外観をしたバスの列にするりと入り込んでしまう。重そうなバスの列は、銀行に駆けつけるパトカーたちとすれ違って走り去る。そして…