場面転換。
屋外。ゴッサムシティ上空を移動するカメラ。夜。

煉瓦造りのビルの屋上から、サーチライトが一本立ち上がる。

屋外。いろいろな場所。連続して。

パトロール中の警官がバットシグナルを見上げ…笑顔になる。車のそばに立つドラッグの売人がバットシグナルに気づき…気圧されて後じさりする。

売人
糞ッ。嫌な夜だぜ。


あんた、縁起をかつぐほうかい?パワーボールに当たる方が奴に会うより簡単だって。

屋内。重大犯罪課。ゴッサム中央署。夜。
三十代の新人女性刑事ラミレスがコーヒーを入れながらテレビニュースを見ている。

テレビ画面:キャスターのマイク・エンゲルが、市長にインタビューしている。

エンゲル
市長、街を浄化するという公約で当選なさったわけですが…いつ始めます?

市長
それはだね、マイク…

エンゲル
たとえばこの、通称バットマン…犯罪者を怖じ気づかせるという点で、彼を支持する人々もたくさんいますが…私は反対です。彼が本当のヒーローなら、どうして 顔を隠す必要があるのか?法律を守らない自称・正義の味方を、野放しにしておいていいんでしょうか?こんなことがいつまで続くんでしょう?警官は彼に、自 分たちではできない荒事をやらせていると言う噂までありますが…

市長
重大犯罪課が、そろそろ彼を逮捕できそうだという報告を受けているよ。

ラミレス
ねえウェルツ、あなた近いうちにバットマンを逮捕することになってるわよ。

ウェルツ、うんざりした顔でテレビを見上げ、紙を丸めてくしゃくしゃにする。

ウェルツ
捜査は着々と進行中。

丸めた紙をくずかごに投げる。紙は「バットマン:容疑者」と題したボードに当たって跳ね返る。ボードには沢山の写真が貼られている。エイブラハム・リンカーン。エルビス・プレスリー。悪の雪だるま。

屋外。屋上。重大犯罪課。夜。
ラミレスが屋上に現れる。ゴードン刑事がサーチライトのそばに座っている。ラミレスがコーヒーを渡す。

ラミレス
たまには帰らないと、奥さんが心配しますよ。

ゴードン
きみこそお母さんの方はいいのか?

ラミレス
母は病院に戻りましたから大丈夫です。

ゴードン
すまんことを聞いたな。

ラミレス
(つとめて明るく)すくなくとも母には24時間、誰かが付いてます。奥さんにも誰かか付いててあげないと。(バットシグナルを見て)まだ来ないんですか?

ゴードンは立ち上がる。夜空に浮かぶバットシグナルを見上げる。

ゴードン
よくあることさ。それでも、こいつのおかげで世間は奴が今夜も戦っていることを思い出す。

ラミレス
どうして来ないんでしょう?

ゴードン
忙しいからだ…と思いたいな。

屋外。パーキングビル。夜。

二台の黒いSUVが最上階に停まる。大柄な男が出てくる。チェチェンだ。ボディーガードの一人が空を指す。チェチェンはバットシグナルを見上げ。肩をすくめる。

チェチェン(ロシア語で)
犬を連れてきてよかった。

ボディーガードその2が後部ドアを開ける。三頭の巨大なロットワイラーが、唸りながら現れる。チェチェンはしゃがみ込み、犬たちにキスする。

チェチェン(ロシア語で)(続けて)
頼りにしてるぜ、可愛い奴ら。
(ボディーガードたちに)
お前らのような間抜けにはバットマンは見えん。だが、こいつらは…
真っ暗闇でも人肉の匂いを嗅ぎ付ける。

チェチェン一味はもう一台のSUVに近づき、やせこけて目ばかりギラギラさせたジャンキーを、髪を掴んで引きずり出す。

ジャンキー
(呂律も怪しく)ひいいい!奴らを、奴らを取ってくれぇぇ!

チェチェンはジャンキーを引きずるように、傷だらけの白いバンに近づく。バンの後部ドアが開き…自動小銃を持った二人のゴロツキが現れる。三人目はまだ暗い車内の残っている。

チェチェン(なまりのある英語で)
見ろ!大事な客をこんなにしやがって!

声(画面外から)
お買い上げは、ご自分の責任で…

そしてその男は姿を現す。スケアクロウだ。いつものマスクをかぶっている。

スケアクロウ
とにかくブッ飛べる薬だと君の部下に言ったはずだ。行きたい場所に飛べるとは言ってない。

チェチェン
お得意さんを壊したら商売にならねえだろうが。

スケアクロウ
私の商品が気に入らないなら、よそで買え。

スケアクロウ
まだバットマンにやられてない売り手がいればの話だがね。

チェチェンは眉をひそめる。犬たちが吠え始めた!

ボディーガード
(不安げに)来やがった。

遠くで見張っていた大柄な手下が、いきなり闇に飲み込まれる。彼が消えた後に立っているのは、蝙蝠の耳を付けた影だ。背後には夜の都市が輝く。

チェチェン
野郎、来るなら来やがれ…犬どもは腹が減ってんだ、お前一人じゃぜんぜん足りねえ。

全く違う場所に立っていたボディーガードが悲鳴を上げて消える。そこにはバットマンがもう一人!

チェチェンは驚いて言葉に詰まる。さらに三人のバットマンの影が現れる。犬たちさえ唸るのをやめる。

ドーン!チェチェンのそばのSUVのボディーに大穴が開く。最初に現れたバットマンらしきものが明るい場所に出てくる。なんとショットガンを持っている!

男たちが駆け回り、最上階に銃火が入り乱れる。もう一人の部下の悲鳴を聞いて、チェチェンは振り返る。

チェチェン(間髪置かず)
犬を放せ!

ボディーガードが犬たちを解き放つ。犬たちは涎を垂らしながら闇の中へ突進する。

犬たちがバットマンらしき影に向かって走り、一匹目が飛び上がって彼の喉笛に食らい付く…

スケアクロウがバンの陰で首を縮める。彼のすぐ背後にショットガンが命中し、車体が穴だらけになる。スケアクロウは運転席に潜り込もうとする。

ショットガンの銃口がスケアクロウの首筋に押し付けられる。バットマンらしき影がすぐ後ろに立っている。とっさにスケアクロウが恐慌ガスを吹き付けると、影は悲鳴を上げて崩れ落ちる。チェチェンは銃声に首をすくめながらも、倒れた男を見る。

スケアクロウ
偽物だ。

チェチェン
なぜ分かる?

スケアクロウ
長い付き合いだからな。

駐車場に並ぶ車の列の上に、巨大な黒い影が轟音とともに落ちてくる。バットモービルだ!

スケアクロウ(即座に)
あれか。

チェチェンの部下たちがバットモービルを撃ちまくる。化け物じみた装甲が銃弾をはじいて火花を散らすが、傷一つ付けられない。

屋内。バットモービル。

コクピットは無人だ。モニタの一つが「待機」という文字を表示している。銃声がやむ。モニタの文字が「威嚇」に変わる。

屋外。駐車場。

男たちが黙ってバットモービルを見つめる。一瞬の静寂の後、ドカン!バットモービルのカノン砲が、彼らのまわりの自動車を吹き飛ばす。

バットマンらしき影がまた一人、逃げていくボディーガードをショットガンで狙う。ガキッ!黒い篭手が銃身をつかみ、金属をきしらせながらねじ曲げてしまう。バットマンらしき影は、バットマンの顔を見つめる。本物だ!

バットマンもどきは恐れをなし、ねじ曲がったショットガンをバットマンに預けたまま後ずさる。バットマンは手を開き、篭手に圧縮空気を使ったピストンが仕込まれているのを見せる。

バッ トマンはもう一人のバットマンもどきを襲っている犬たちに近づき、ワイヤー牽引銃を抜いてバットマンもどきの脚を撃ち、ワイヤーの力で彼を犬たちから引き はがす。気を失った彼に、まだ一匹しつこく噛み付いている犬がいる。チェチェンは通路を駆け下りて出口に向かっている。

バットマンはしつこい犬を偽物から蹴りはがす。チェチェンは自分のSUVに乗り込む。別の犬がバットマンの二の腕に食らいつき、引きちぎろうとする。バットマンは腕を振り、頭越しに犬を地面に叩き付ける。ようやく犬は腕を放す。

立ち上がるバットマンの背後にエンジン音が迫る。振り向こうとするが間に合わない。ドン!バットマンは加速するバンに横から跳ね飛ばされる。

車内。バン。直後。(この部分、明らかに説明不足。バットマンはそのまま車体の横にしがみついてます。)

運転席のスケアクロウはバットマンに頷くやアクセルを踏み込む。バットマンが腕を挙げると篭手に仕込まれた機械仕掛けが見える。機械はバットマンの指先から獣の爪のようにジャキンと開き…

バットマンはその手で車の窓ガラスを突き破る。手を引き抜き、もう一度突き破るが、今度は引っかかって抜けなくなる。スケアクロウはバットマンをぶつけようと、柱に向かってハンドルを切り…

屋外。駐車場。直後。

バットマンは車体から離れることができない。篭手に付いた機械のダイアルを回すと、ボルトが爆砕して機械が篭手から外れる。転がって車体から離れるや否や、バンは車体を柱にこすりつけ、転がるように通路を下りてゆく。

バットマンは立ち上がる。十階建ての駐車場の外側の螺旋状通路の天辺に立って何かを待っているバットマンを、偽物の一人が見ている。

一瞬後にバットマンは跳ぶ。十階分の高さを跳び下りる。

Yuriwaka in the Kitchen

いちばん下の出口に叩き付けられる寸前、バンが姿を現す。バットマンのマントが音を立てて開く。ドーン!バットマンが屋根の上に降り立つ。車体を粉砕しながら。

屋外。屋上。立体駐車場。しばらく後。

チェチェンの部下たちが手足を拘束され、壁の前に並べられている。偽のバットマンたちも同様に並べられている。三人の偽物の隣に、バットマンはスケアクロウをドサリと落とし、スケアクロウのマスクをむしり取る。

偽バットマン
手伝おうとしたのに!

バットマン
要らん。

スケアクロウ(画面外で)
痩せ我慢だな。

バットマンはスケアクロウを蹴って黙らせ、偽バットマンのほうを向く。

バットマン
二度とこんなことをするな。

バットマンはバットモービルに向かって歩く。

偽バットマン
無茶だ!あんた一人で「戦争」に勝てるもんか。

バットマンはバットモービルに乗り込む。

偽バットマン(続けて)
あんたに何の権利がある?あんたと俺たちは何が違うんだ?

プシューとキャノピーがしまる間に
私はホッケーの防具を付けない。

偽バットマンが自分の手作りコスチュームを見下ろしている間にバットモービルは轟音をあげて走り去る。