屋外。ペニンシュラ・ホテル。香港。日中。
ホテルの屋上の二つ並んだヘリポートに、ヘリが一機着陸する。頭を下げてローターを避けながら、L.S.I.の二人の副社長が近づく。フォックスがヘリから現れて、握手し、エンジン音に負けじと大声を出す。
副社長
フォックスさん、香港へようこそ!ラウ氏が、最後に直接お話しできなかったことを残念がっていました。しかし彼は現在法的に難しい状況で…
フォックス
わかりますとも!
屋内。ロビー。L.S.I.ホールディングス。日中。
副社長たちがフォックスを案内して、セキュリティ・ゲートにやってくる。
副社長
保安上の都合で、携帯電話をお預かりせねばなりません。
フォックスは電話を守衛に渡す。守衛は机の下の箱に電話を入れる。
屋内。L.S.I.ホールディングス。日中。
フォックスとラウは街を見下ろす食堂で昼食をとる。
ラウ
交渉の真っ最中にゴッサムを離れてしまったことをお詫びします。ゴッサム警察との間に誤解があったのですが、こんなことで怖じ気づく我が社ではありません。あなたほどのビジネスマンであればお分かりでしょう。しかしあなたがわざわざ来てくださったのなら、交渉を続けることができます。
フォックス
いや、香港に旅行するきっかけを作ってくださったことには感謝しますが、実は今回お邪魔したのは…
携帯電話が鳴る。フォックスはさっき預けたのとそっくり同じタイプの携帯電話を取り出す。電源を切って、皿の側に置く。
ラウ
ここでは携帯は…
フォックス
失礼。持っていたのを忘れていました。で、今回お邪魔したのは、この話を凍結させていただく件について、一言説明を…
ラウはフォックスをまじまじと見る。明らかに激怒している。フォックスは笑顔になる。
フォックス(続けて)
われわれとしても、あなたのような…その、まあ嫌疑がかかっているというだけですが、あなたのような方と取引するのは企業イメージに関わるわけです。あなたほどのビジネスマンならお分かりでしょうが。
ラウは立ち上がる。無言。フォックスは自分の電話を取る。立ち上がる。
ラウ
(冷たく)そういうことなら、フォックスさん、電話を一本くださればよかったんでしょう。
フォックス
その、私は中華料理が好きでして。それから、意図的にあなたの時間を無駄にしたような印象を与えてはよくないと、ウェイン氏が…
ラウ
では、「たまたま」私の時間を無駄にしたということですか?
フォックス
(笑う)そうそう、「たまたま」、まさにそうです。ウェイン氏はあなたにユーモアのセンスがないと思っているようですが、そんなことはないと報告しておきます。
屋内。ロビー。L.S.I.ホールディングス。日中。
フォックスはセキュリティ・ゲートを通って帰ってゆく。副社長に会釈すると、彼らは頭を下げてフォックスの携帯電話を差し出す。フォックスは首を横に振って、そっくり同じ電話を見せる。副社長は笑顔で頷いて、他の電話が入ってるボックスに携帯電話を戻す。
屋内。C-130輸送機。夜明け。
二人の密輸業者がウェインをちらりと見る。ウェインはバラクラバ帽とパイロットスーツを着て、後ろのほうにしゃがんでいる。副操縦士が合図をすると、ウェインは首から下げていた酸素マスクを装着して立ち上がる。飛行機の後部が開く。ウェインは端まで歩いていき、そしてジャンプする!
屋外。香港上空。夜明け。
カメラは海から香港ハーバーに向かって移動していき…
小さな人影が上からフレームに飛び込み、海面に向かって小石のように落ちてゆく。摩天楼の最上階のそばをかすめ、地面まであと数秒というところで、ウェインはパラシュートの紐を引き、海面に降下する。
屋外。高架下。香港ハーバー。日中。
ウェインが水から上がり、装備の詰まったバッグを引っ張り上げる。
屋外。中央エスカレーター。日中。
通勤者で込み合うエスカレーターの中途でウェインが立ち止まる。平凡な旅行者のように、カメラを構える。
フォックス(画面外から)
ピークトラムのほうが眺めがいいですよ。
ウェインは振り返り、地図を広げたフォックスが立っているのを見る。
ウェイン
L.S.I.ホールディングスからの眺めはどうだった?
フォックス
いろいろ邪魔になってよく見えませんでした。ラウはアナグマみたいにこもってます。これを…
フォックスはウェインに電話を見せる。画面に、ラウのオフィス・スイートの三次元マップが現れる。ウェインは電話を手に取って感心している。
ウェイン
これは何だい?
フォックス
うちの研究開発部門に作らせました。高周波振動を出して、跳ね返ってくるまでの時間で周囲をマッピングするんです。
ウェイン
(笑顔で)ソナーだ。まるでコ…
フォックス
潜水艦。まるで潜水艦のように。
ウェイン
で、もう一つの携帯は?
フォックス
仕掛けてきました。
ウェインは頷き、歩き出す。
フォックス(続けて)
会長。
(ウェインは振り返る)
幸運を。