屋外。ゴッサムのダウンタウン。日中。

州軍のヘリコプターが轟音を上げてゴッサム総合病院の上を飛ぶ。

屋内。病室。日中。

デントが横たわっている。包帯を巻かれ、麻酔をかけられて。不意に、苦しげに起き上がる!テーブルの上に何かあるのに気づく。例のコインだ。うまく動かない手でコインを取り、片面がまだピカピカなのに驚く。そして回想する。

インサート:コインをキャッチするレイチェル。

デントはコインを裏返す。そちらは黒焦げだ。焼け爛れた肖像をじっと見つめる。不意に包帯をむしり取りはじめる。

屋内。ウェインのペントハウス。日中。

アルフレッドがウェインのところにやってくる。テレビを示す。

アルフレッド
ご覧ください。

画面上:エンゲルがスタジオからカメラに向かって話している。

エンゲル
彼は信用できる情報源です。有名なコンサルタント会社のA&M弁護士です。彼はバットマンが義務を果たすまで、待てるだけ待ったと言っています

カメラがリースに切り替わる。リースは頷く。

エンゲル(続けて)
そして遂に、自ら発言する決心をしたそうです。本日夕方五時から、バットマンの正体について生中継でお送りします。チャンネルはそのまま

屋内。病室。直後。

ゴードンが入ってくる。デントは横を向く。そうしていると全く以前と同じに見える。

ゴードン
レイチェルのことは済まなかった。
(返事がない)
医者から聞いたんだが、ひどい苦痛なのに薬を拒否しているそうだな。皮膚移植も断ったとか

デント
私が内調時代に君たちにもらった渾名を覚えてるかい?何だったっけな、ゴードン。

ゴードン
ハーヴィー、私は

デント
言えよ!

デントの怒りがゴードンをすくませる。ゴードンは目をそらす。恥じている。

ゴードン
(小声で)
二つの顔。二つの顔のハーヴィー。

デントはゴードンにまっすぐ顔を向ける。デントの顔の左半分は破壊されている!肌は黒く焦げ、引きつっている。頬と唇がなくなり、歯は奥歯まで剥き出しだ。眼窩の中の眼球も見える。デントはきれいな方の顔で、無理に少し笑ってみせる。

デント
だったらこの顔でいいじゃないか。

ゴードン
私はあんたの警告を聞き流した。すまない。あんたを車に乗せたウェルツは奴らのスパイだったのか?
(返事がない)
レイチェルを乗せたのが誰か知っているか?
(返事がない)
ハーヴィー、私は誰が信用できるのか知る必要があるんだ。

デントはゴードンを見つめる。冷たく。

デント
私が言えば信じるのか?

ゴードン
悪かった、ハーヴィー。

デント
いや。君は信じないね。もっと痛い目に遭うまで。

ゴードンは何とも言えぬ表情で最後にデントを見つめ、そして立ち去る。

屋内。廊下。病院。直後。

ゴードンが病室から出てくると、誰かがいる。マローニだ。松葉杖をついている。ゴードンはマローニをじっと見る。冷たい目だ。マローニは気まずそうに身じろぎする。

マローニ
気違い沙汰だ。これは行き過ぎだよ。

ゴードン
あの道化師を箱から出す前に、それを考えるべきだったな。

マローニ
奴を捕まえたければ、今日の午後奴がどこにいるか教えてもいいぞ。

屋外。使われていないドック。日中。

チェチェンがSUVから降りてくる。錆び付いた廃船を見る。チェチェンとボディーガード、そして犬たちが道板に向かって歩いてくる。

屋内。錆びた廃船。直後。

チェチェンたちは巨大な船倉に入ってくる。中央に、一億ドル。札束は10メートルほどの高さに積み上げられている。てっぺんにジョーカーが立っている。足許で縛られているのはラウだ。チェチェンは笑う。

チェチェン
やっぱりあんた、見た目ほど狂っちゃいないな。

ジョーカーはてっぺんから飛び降り、札束の斜面を滑り降りてくる。

ジョーカー
約束は守ると言っただろう?
(あたりを見回す)
イタリア系の連中は?(マローニ一派のこと)

チェチェンは肩をすくめる。葉巻を取り出す。火をつける。

チェチェン
俺たちの分け前が増えるってことだ。ジョーカーの旦那、あんたの取り分はどう使う?

ジョーカーは手下が持っていたガソリンの缶を掴む。

ジョーカー
私はシンプルなものが好きでね。火薬とか、ダイナマイトとか

ジョーカーは札束の山にガソリンをぶちまける!

ジョーカー
(続けて)
ガソリンとか

チェチェンは激怒してジョーカーに迫る。ジョーカーは振り返る。銃をチェチェンの顔に突きつける。チェチェンのボディーガードたちが反応する!ジョーカーの手下たちが銃を抜いて彼らを制する!

ジョーカー(続けて)
これらに共通するものは何か?安いってことだよ。

チェチェン
約束は守ると言ったじゃないか。

ジョーカーはチェチェンの口から葉巻を抜き取る。

ジョーカー
守るさ。

ジョーカーは葉巻を札束の山に向かって放る。

ジョーカー(続けて)
燃やすのは私の分だけだ。

チェチェンは金に火が燃え移るのを見る。

ジョーカー(続けて)
君たちはいつも金のことばかり考えている。この街にはもっと高級な犯罪者が必要だ。つまり我々のことだよ。今やこの街は私のものだ。君の部下たちに、新しいボスが誰か教えるといい。

チェチェン
奴らは化け物の言うことなんか聞かねえ。

ジョーカーはナイフを取り出し、自分の手下の一人に投げる。

ジョーカー
奴を細切れにして可愛い犬たちにくれてやれ。腹の減った犬がどのぐらい主人に忠実か教えてやるんだ。

ジョーカーの手下たちがチェチェンを捕まえる。
ジョーカー(続けて)
金はどうでもいい。大事なのはメッセージを伝えることだ。

ジョーカーは燃え盛る火柱を見る。ラウが悲鳴を上げる。

ジョーカー(続けて。)
燃えろ。何もかも。

ジョーカーは電話を取り出す

屋内。テレビのスタジオ。日中。

リースは自信ありげだ。エンゲルが視聴者からの電話を取っている。

視聴者1(画面外から)
あんた、バットマンの正体をばらすことでテレビ局から幾らもらうんだ?

リース
金のためにやってるんじゃない。

エンゲル
はい、次の方につながりました。

視聴者2(画面外から)
ハーヴィー・デントは狂人に屈するなと言った。あんたは本当にこうする方がいいと思ってるのか?

エンゲル
そうですね、デントはバットマンに自首してほしくなかった。リースさん、あなたのやろうとしていることは正しいのでしょうか?

リース
デントだって、今なら考えを変えてるかもしれません。

エンゲル
デント氏の回復を祈りましょう。我々には今こそ彼が必要です。それでは次の方につなぎましょう。

老婦人(画面外から)
リースさん、一人の命と、百人の命と、どちらが大切ですか?

リース
誰の命かによるでしょう。

老婦人(画面外から)
なるほど。では、あなたの命ということにしましょう。それはほかの何百人かの命
より大切ですか?

リース
もちろんそんなことはありません。

老婦人(画面外から)
それを聞いてうれしいです。市内の病院の一つに、爆弾を仕掛けました。六十分後に爆発します。だれかがあなたを殺さない限り。

エンゲル
あの、お名前は?

老婦人(画面外から)
市民として議論に参加しているだけですよ。(声のトーンを落とし、ジョーカー本来の声になる。)ごく普通の男として

屋内。重大犯罪課。ゴッサム中央署。直後。

ゴードンと部下たちがジョーカーを逮捕するために出仕度をしている。一人の刑事が取り調べエリアのテレビをつける。

ジョーカー(画面外から)
たしは夢想していたんだ、バットマンのいない世界を。ギャングはちまちまと日銭を稼ぎ、それをまた警察が一区画ごとに潰して行くそしてそれはとても退 屈だ。私は気が変わった。ここでリース君に全てをばらされてしまっては困る。しかしまた、私一人で楽しむのは申し訳ないだろう?ほかの皆さんにもチャンス を与えようじゃないか

レースは辺りを見回す。顔が引きつっている。脂汗をかいている。

ジョーカー(画面外から)(続けて)
もし六十分以内にコールマン・リースが死んでいなければ、私は病院を吹っ飛ばす。もちろん、自殺してもいいんだよ、リース君。これは名誉ある自殺だ。そして君は弁護士だ。

電話が切れる。エンゲルは言葉が出ない。

ゴードンは制服警官たちに指示を飛ばす。

ゴードン
市内の警官全員に連絡を取れ。最寄りの病院へ急行して避難と捜索を開始させろ。交通局、教育委員会、刑務所に電話して、手持ちのバスを全部病院に向かわせろ。ゴッサム総合病院が最優先だ。患者を全員運び出せ。これは勘だが、爆弾が仕掛けられているのはそこだ。

マーフィー刑事
なぜ?

ゴードン
あそこにはハーヴィー・デントがいる。

制服警官たちは一斉に走り去る。ゴードンは刑事たちの方を向く。

制服警官(刑事の間違いか?)
我々はどこへ?

テレビ画面:突然狩られる立場に置かれたリースは茫然としている。

ゴードン
リースをおさえる。

屋内。ウェインのペントハウス。日中。

ウェインとアルフレッドはエレベーターに向かって歩く。

ウェイン
君はデータベースを使ってゴードンの部下たちとその家族をチェックしてくれ。

アルフレッド
何を調べれば?

ウェイン
入院記録だ。

アルフレッド
バットポッドでお出かけになりますか?

ウェイン
白昼堂々かい?もっと地味に行こうよ。

アルフレッド
ではランボルギーニで。
(ウェインが出て行くのを見て)
すこぶる地味でございますね。

屋外。ゴッサムの街路。日中。

ウェインのランボルギーニがダウンタウンを疾走する。

屋内。病院。直後。

大混乱。患者や職員が逃げ惑っている。警官と交通監視官が懸命に避難を誘導している。デントの部屋を警護していた二人の警官は、そのまま警護を続けるべきか分からずに顔を見合わせる。

看護婦
ちょっと、手を貸してちょうだい!

廊下の曲がり角で引っかかった車輪付きのベッドを押すために、警官たちは走り去る。

省略

屋内。ロビー。テレビ局。日中。

ゴードンと部下たちがリースを囲んでエレベーターから出てくる。カメラクルーを従えたエンゲルもついてくる。ゴードンがガラスのドアに近付くと、いきり立った群衆が局の前に詰めかけているのが見える。

エンゲル
本部長!?ひょっとして本当にリースを殺そうとする市民が

ゴードンは老人がピストルを構えるのに気づく。ゴードンがリースを地面に突き飛ばすと同時に、積層ガラスのロビーのドアが銃弾を受けて粉々になる。群衆はデタラメな方向に走り出す。

ゴードン
裏に車を回せ!

ゴードンはリースを階段に向かって投げ飛ばす。

車内。ランボルギーニ。直後。

ウェインはスピードを落として、テレビ局の前の混乱を見ながら通り過ぎる。

ウェイン
オブライエンとリチャードがいる

屋内。バット地下壕。直後。

アルフレッドはコンピュータに向かってキーボードを叩く。

アルフレッド(画面外から)
何も見つかりません。ゴッサム市内で入院中の近親者はいませんね。

屋内。階段。テレビ局。直後。

ゴードンが、怯えるリースを引き摺って階段を下りる。

リース
(怖じ気づいて)
みんな、私を殺す気だ

一行は警察のバンに乗り込む。

車内。警察バン。直後。

ゴードンがリースを後部座席に放り込む。にやりと笑う。

ゴードン
ま、バットマンが助けてくれるかもしれないね。

バンはタイヤを軋らせて発進し、道路に出て行く。

屋外。病院。直後。

警官たちが患者をバスに積み込んで行く。テレビ局のバンが停まり、エンゲルとカメラマンが飛び出してくる。デントの護衛の一人、ポークが、一台のスクールバスの中を覗き込む。患者を誘導している警官に向かって、

ポーク
オーケー、これ以上乗せるな。
(無線機に)
デービス、席は確保した、彼を運んでこい。
(返事がない)
デービス?

ポークは病院に取って返す。避難する人々の流れに逆らって。

車内。ランボルギーニ。直後。

ウェインは少し後方から警察のバンを尾行している。

ウェイン
バーンズとザカリーが見える。それから知らない警官一人。

アルフレッド(画面外から)
バーンズはシロです。ザカリーは

ウェイン
少なくとも私の知らない警官が一人いる。ゴードンに知らせてくれ。

車内。警察のバン。直後。

ゴードンの電話が鳴る。ゴードンはテキストメッセージを見る。注意せよ。親族がゴッサムしないで入院中の警官。バーク、ラミレス、ティル

屋内。デントの病室。直後。

ポークが入ってくる。デービスの姿がない。赤毛の看護婦が、こちらに背を向けて、デントのデータを読んでいる。

ポーク
看護婦さん、すぐに彼を動かさなきゃなりません。
(返事がない)
看護婦さん?

赤毛は振り返る。ジョーカーだ。手に消音器付きのピストル。発砲!

屋外。ゴッサムの街路。直後。

ランボルギーニはバンに近付くために、猛スピードで一台追い越す。

車内。警察バン。直後。

ゴードンは電話のメッセージを読んでいる。エリクソン。バーグ。ゴードンは鋭く顔を上げる。ショットガンを神経質にいじっている制服警官を観察する。

ゴードン
バーグ君だったね?

若い警官バーグは顔を上げる。汗をかいている。

バーグ
何ですか、本部長?

ゴードン
君、大丈夫か。

バーグは頷く。腕時計を見る。

屋内。病室。日中。

ジョーカーはデントのベッドに近付く。デントは革製の拘束具でベッドに縛り付けられて、もがく。

ジョーカー
おっと、恨みっこは無しだぜ、ハーヴィー。

ジョーカーはデントの拘束を緩める。

ジョーカー(続けて)
君とレイチェルが誘拐された時、私はゴードンのところで檻に入ってたんだ。私の仕組んだことじゃない

デント
お前の部下だ。お前の計画だ。

ジョーカー
私が計画を立てるような人間に見えるかね、ハーヴィー?私にはプランなんて無い。

ジョーカー(続けて)
ギャングは計画を立てる。警察も立てる。そして私がどんな奴か知ってるかい、ハーヴィー?

デントの手は震えている。

ジョーカー(続けて)
は自動車の後を追っかけてる犬だもし追いついたらどうしようなんて、まるで考えちゃいない。ただあれこれやってるだけなんだよ。ギアの間に放り込まれた レンチさ。私は計画が嫌いだ。君のも、奴らのも、ほかの誰のも。マローニには計画がある。ゴードンにも。奴らは計画で世の中を操ろうとする。私はそういう タイプじゃない。奴らに、計画を立てて物事を動かそうとすることが如何に無駄か、教えてやるのが楽しみなんだ。だから、君と君のガールフレンドに恨みがな かったと私が言うなら、それは本当のことなんだよ。

ジョーカーはデントにピストルを渡す。デントはそれをジョーカーの頭に突きつける。

屋外。交差点。ゴッサムの街路。続き。

ウェインは赤信号で停まっている警察バンの二三台後ろにつけるために、轟音を上げて何台かゴボウ抜きにする。

車内。ランボルギーニ。続き。

ウェインは交差点を見回す。ほかの車と競り合って侵入しようとするピックアップ・トラックに気づく。

車内。警察バン。続き。

ゴードンは小心な手つきでショットガンの銃身をなぞっているバーグを観察する。ゴードンはこっそり自分の銃をホルスターから抜こうと身じろぎを始める。

ゴードン
ちょっと君の銃を貸してくれ。

バーグはゴードンを見る。

バーグ
えっ?