車内。ランボルギーニ。続き。
ウェインはピックアップの運転手が警察のバンを睨みつけているのを見る。ピックアップはバンに近付いて行く。
車内。警察バン。続き。
リースはバーグとゴードンを見比べる。バーグはゴードンを見つめながら震えている。ショットガンの銃身が次第に下がって行く。
バーグ
なぜです?私の妻が病院にいるからですか?
ゴードン
そうだ。多分それが理由だ。
屋内。デントの病室。続き。
ジョーカーがベッドの上に身を乗り出し、銃口に自分の頭を押し付ける。
ジョーカー
君がこんな目にあったのは、策略家どものせいだ。君はその筆頭だった。いろいろと計画を持っていただろう。で、結局どうなった?私は私の得意技を使っただけだ。君の計画を逆手に取って、すべてが裏目に出るようにしたのさ。私がガソリンの入ったドラム缶と弾丸を少し使っただけで、この街は大騒ぎだろう?予想通りの人間が殺されてもパニックになる奴はいない。物事が計画通りに進んでいる限り人は驚かない…たとえそれがどんなに恐ろしい計画であっても。私がマスコミに向かって「明日ギャングが撃たれるだろう」とか「兵隊が輸送車ごと吹っ飛ばされるだろう」と言ってもパニックは起きない。なぜならそれらはすべて計画通りだからだ。でも、「ケチな爺さんの市長が死ぬだろう」と言ったら大騒ぎになる。ちょっとした無秩序を見せてやると、既存のシステムは掻き乱されて大混乱が起こる。私は混沌の使徒だ。そして混沌の何がすばらしいか知っているかね、ハーヴィー?
デントはジョーカーの目を見つめる。何やら掴みかけている。
ジョーカー
公平だってことさ。
デントは手の中のコインを見下ろす。裏返してみながら、その重さを味わう。ジョーカーにコインのきれいな側を見せる。
デント
殺さない。
デントはコインを裏返す。裏側はすっかり焼けこげている。
デント(続けて)
殺す。
ジョーカーはコインを見る。それからデントを見る。満足しているようだ。
ジョーカー
分かってきたじゃないか。
デントはコインを投げ上げる。掴む。見る。
屋外。交差点、ゴッサム街路。続き。
信号が青になる。警察のバンが交差点に進入すると、ピックアップトラックが急発進して猛スピードで迫ってくる…
車内。ランボルギーニ。続き。
ウェインがアクセルを床まで踏み込み、ハンドルをグイと回して歩道に乗り上げ…
車内。警察バン。続き。
バーグが唇をなめる。不安げな表情。
バーグ
リースさん?
ピックアップトラックが全速力で突っ込んでくる。あわやの瞬間、ウェインのランボルギーニが横合いから滑り込んで、身代わりにピックアップの体当たりを受ける。
車内。警察バン。続き。
衝突の衝撃で車が揺れる!ゴードンは前に向かって跳び、バーグのショットガンの銃身を持ち上げる。発射された散弾は天井に穴をあける。ゴードンは腕を横に振ってバーグの頭を殴る。
屋外。交差点。ゴッサム街路。続き。
ゴードンの部下たちがピックアップの運転手を座席から引きずり出す。ゴードンは潰れたランボルギーニからウェインを助け出す。その途中でゴードンは彼が有名な大富豪であることに気づく。
ゴードン
ウェインさん、大丈夫ですか?
ウェインは、ぼんやりとした顔でゴードンを見る。縁石に腰を下ろす。
ウェイン
ブルースでいいよ。たぶん大丈夫だ。
ゴードン
勇気ある行動に感謝します。
ウェイン
信号が変わりそうだったから急いだだけなんだけど?
ゴードン
警察のバンを守ろうとしたんじゃないんですか?
ウェインは振り返り…まるで初めて気がついたように警察のバンを見る。リースがふらふらと降りてくる。
ウェイン
まさか。誰が乗ってるんだい?
リースはウェインの目をまじまじと見つめる。会釈する。ゴードンはブルース・ウェインと、ボロボロになったスポーツカーを見比べる。
ゴードン
あまりニュースはご覧にならないんですね、ウェインさん。
ウェイン
だって見ると疲れるじゃないか。病院へ行った方がいいかな。
ゴードン
今日は止めた方がいいでしょう。私なら行きません。
屋内。廊下。病院。続き。
ジョーカーがほとんど人気がなくなった建物の中を淡々と歩く。歩きながらポケットから爆破スイッチを取り出す。ゆっくりと歩きながらボタンを押す!時差の付いた爆発が次々と起こり、建物を取り壊すための爆破のように、ジョーカーが歩いてきた廊下を爆煙が塞いでいく。ジョーカーはそのままスタスタとドアから出て行く。
屋外。病院。続き。
ジョーカーは階段をのんびりと下りてくる。窓が次から次へと爆発し、人々は物陰に飛び込む。エンゲルは命からがらスクールバスに飛び乗る。
ジョーカーは広い駐車場を横切る…彼の背後で建物が崩れ落ちていく。
屋外。交差点。ゴッサム街路。続き。
ゴードンは爆発音を聞きつける。
ゴードン
ゴッサム総合病院か…
(電話を掴んで)
デントは助け出したか?
警官(画面には映らない)
おそらく…
屋外。病院。続き。
電話に応えながら、警官は身を縮める。粉塵と爆煙が、通りの向こうから圧し寄せてくる!
車内。スクールバス。続き。
ジョーカーがバスに乗り込む。運転席の手下に向かって頷く。
屋外。病院。続き。
あらゆる人の目が、崩れ落ちる建物に吸い寄せられている。一台のスクールバスが、駐車場に並んだバスの列を抜け出し、外の道路に向かって走り去る。
屋内。バー。ゴッサムの山の手。日中。
近所の住民相手のバーはガランとしている。馴染みの酔っぱらいが一人カウンターに突っ伏している。バーテンダーはテレビの臨時ニュースを見ている。
バーテンダー
おいおいおい、見たか、マイク?病院を爆破しやがったよ…
ウェルツ刑事は、テレビを見られるブース席に収まって、退屈した表情。
バーテンダー(続けて)
刑事さん、こんなとこでサボってていいのかい?
ウェルツ
今日は非番なんだ。
バーテンダーはレジを閉める。
バーテンダー
ちょっと用を足してくるから見ててくれ。
バーテンダーは出て行く。もう一度裏口のドアが開く。
ウェルツ
おい、カクテルなんか作れねえぞ…
彼の言葉は中断される!誰かが顔に銃を突きつけたのだ。ハーヴィー・デントだ。暗がりに立っているのでよく見えない。ハーヴィーは席に座る。
デント
やあ。
ウェルツ
デント…死んだんじゃ…なかったのか…
デントは明かりの中に身を乗り出す。顔の左半分は醜く焼け爛れている!頬と唇が根こそぎなくなり、黒くなった歯と歯茎が丸見えだ。
デント
半分はね。
デントはウェルツのグラスを取り上げる。一口すする。飲み下すときに剥き出しの筋肉が動くのを、ウェルツは見ている。
デント(続けて)
レイチェルを車に乗せたのは誰だ、ウェルツ?
ウェルツ
きっとマローニの手下…
デントはグラスをテーブルに叩き付ける!ウェルツは身をすくませる。
デント
よりによってお前が、ゴードン組の中の裏切り仲間を守ろうってのか?
ウェルツ
知らないんだよ…俺はしょせん使いっ走りだ。
ウェルツ
(デントを凝視して)
神に誓って、俺は奴らがあんたに何をするつもりか知らなかった…
デント
面白いな。私もお前がどうなるか知らないんだよ。
デントはレイのコインをポケットから取り出す。はじく。ウェルツはそれが空中で回転するのを見つめる。コインはテーブルに落ちる。焼け焦げた側が上だ。カウンターに突っ伏していた酔っぱらいが、銃声を聞いてビクリと身じろぎする。
屋外。ゴッサム総合病院。日中。
怒り心頭のゴードンが、一人の警官に案内されて爆発現場を視察している。
ゴードン
この建物に何人いたか分かってるだろう。患者リストとか職員リストとか…
警官
本部長殿!何しろこんな状況です。警察に、州軍に…
(並んだバスの方を指差し)
たしかに五十人、行方不明者がいます。でも建物からの避難は完全に済んでいました。患者をバスでほかの病院にどんどん移送しています。これはカンですが、バスを一台数え忘れただけかと…
ゴードン
なるほど?じゃあハーヴィー・デントがどこにいるかもカンで教えてくれるかね?
警官は言葉に詰まる。
ゴードン(続けて)
捜索を続けろ。ただしこのことは誰にも漏らすな。
屋内。ウェイン・インダストリー内のフォックスのオフィス。日中。
フォックスはニュースを見ている。インターコムが鳴る。
声(画面外から)
社長、警備のほうから研究開発部門に侵入者があったと…
屋内。研究開発部門の前の廊下。日中。
フォックスは二人の警備員に、ドアをこじ開けさせる。フォックスは一人で入っていく。
屋内。ラボ。研究開発部門。日中。
フォックスは薄暗い部屋に入っていく。奥に、何千もの小さなモニタを並べた異様な一角がある。一台ずつ、あるいは何台かが協力して建物の構造図を映し出すのを、フォックスは感心して見ている。やがて無数の画像は一枚の巨大な地図になる。
バットマン(画面外から)
美しいだろう。
フォックスは頷き、モニタの群れを見つめ続ける。バットマンが近付いてくる。
フォックス
美しい。だが間違っている。しかも危険です。
街じゅうの電話を、盗聴器に使うとは…
ルシアス(フォックス)はキーを押す。百万の会話のざわめきが部屋を満たす。ゴッサム全市の携帯電話から音声が送られてくるのだ。
バットマン
高周波発信器と受信機にもなっている。
フォックス
香港でお貸しした電話と同じですな。私のソナーのアイディアを、全市民の携帯電話に組み込んだ。市民の半分がソナー情報を送ってくれば、ゴッサム市内のあらゆるものをモニターできる。
(バットマンの方に向き直り)
これは間違っています。
バットマン
どうしてもあの男を見つける必要があるんだ、ルシアス。
フォックス
そしてその代償は?
バットマン
データベースはNull Key暗号化されている。アクセスできる人間は一人だけだ。
フォックス
そんな力を持った人間は、たった一人でも存在してはなりません。
ウェイン
だから君に託すんだ。君だけが使うことができる。
ルシアスはバットマンを見つめる。目が険しい。
フォックス
三千万人の生活を覗き見する、なんて項目は雇用契約になかったと思いますが。
バットマンはテレビを指差す。フォックスはそちらを見る。画面上で:ジョーカーがやれやれと首を振っている。画面下のタイトルは「新たな脅迫」。
ジョーカー
どこまでやったら、みんなも参加してくれるのかねえ…
屋外。ゴッサム総合病院の緊急本部テント。直後。
ゴードンがテレビを見ている。深刻な表情。
ジョーカー
弁護士を殺し損なったみたいだねえ…どうやらあの程度ではゲームに参加する気にならないのかな?じゃあ、これならどうだ。
屋内。バー。ダウンタウン。直後。
勤め人で一杯のバー。みんなテレビを見ている。静寂。
ジョーカー
夜になればこの街は私のもの、
ここに残っている皆さんには私のルールで遊んでもらうよ。
参加したくないのなら、すぐに出て行くんだ。
バーの客たちが逃げ支度を始める。ジョーカーはカメラに向かって手を差し伸べる。
ジョーカー(続けて)
でも橋やトンネルを通って通勤してる皆さん(マンハッタンへの通勤者を昔はこう呼んだそうな。)には、ドッキリを仕掛けておいたからね。
ぶつり。映像が切れて、ノイズだけが映る。バーの客たちはどうしたものかと辺りを見回す。
屋内。ラボ。研究開発部門。直後。
フォックスはテレビの画面からバットマンの方に向き直る。
バットマン
私を信じてくれ。
フォックスはバットマンを睨む。
バットマン(続けて)
これが音声サンプルだ。
彼はフラッシュドライブのようなものを端末に差し込む。ジョーカーが電話してきたニュース番組からの録音が流れる。
バットマン(続けて)
そばに電話があるところで奴が話せば、三角測量の要領で居場所を割り出せる。
ルシアスは画面上のメニューを切り替える。市内のあらゆる場所が見渡せる。人々は働き、食べ、眠っている。ルシウスは首を振る。
バットマン(続けて)
用が済んだら君の名前を打ち込めばシステムをオフにできる。
フォックス
今回だけですよ…
ルシウスは端末の前に座る。バットマンは立ち去りかける…
フォックス(続けて)
これが終わったら辞めさせていただきます。
バットマンは振り返る。フォックスは彼を見る。真顔だ。
フォックス(続けて)
こんな機械がウェイン・インダストリーにある限り、私はここには居られません。
屋外。様々な場所。暮れ方。
ゴッサム市民たちが津波のように街から出て行く。徒歩で、あるいは車で…人気のない橋やトンネルでは、爆弾処理チームだけが異物を探している。
屋内。市役所。直後。
ゴードンが市長に報告している。
ゴードン
私の部下たちがトンネルや橋を虱潰しに捜索しています。ジョーカーの脅迫とあっては、そうせざるを得ません。
市長
東側の陸路は?
ゴードン
何時間も渋滞しています。そのせいでフェリーに乗るために三千万市民が行列しています。しかも犯罪者収容施設が満杯になったので、フェリーを一艘借り切って囚人の一部を島から送り出す必要があります。
市長
君とデントが捕まえた連中かね?奴らのことは、まあ心配しなくてもいいだろう。
ゴードン
そうでもなさそうです。彼らが何らかの形で非常事態に巻き込まれれば、ゴッサム全体にとって深刻な脅威となります。ジョーカーが何を企んでいるにせよ、ハーヴィーの捕まえた囚人たちが絡んでくる可能性は大いにあります。奴らをここに置いておきたくないんですよ。
屋外。フェリー乗り場。暮れ方。
フェリー乗り場では、州軍の兵士たちが監視する中、パニック寸前の三千万市民がひしめき合って、セブン・シスターズ地方行きの巨大なフェリーに乗る順番を待っている。しかしその脇で、ショットガンを持った看守たちに守られた八百人の囚人がフェリーに乗り込んでいくのを見たとき、市民たちの不満のつぶやきは怒号に変わる。
市民
こんなバカなことがあるか!我々を優先すべきだろう!
州軍兵士
彼らと一緒の船に乗りたければ、どうぞ御自由に。
屋外。高級住宅街。暮れ方。
マローニがリムジンの後部座席に乗り込む。
車内。リムジン。暮れ方。
マローニが座席に腰を落ち着ける。車は出て行く。
マローニ
信号も警官も無視して走るんだ。
デント(画面外から)
女房の所に逃げようって腹か。
マローニは仰天する。誰かが隣に乗り込んでいたのだ!ハーヴィー・デントことトゥーフェイスが、ピストルを握ったまま顔を近づけてくる。
デント(続けて)
奥さんを愛しているかね?
マローニ
ああ。
デント
彼女が死ぬときの声を聞くのは、どんな気持ちかな?
マローニ
復讐ならジョーカーの所に行ってくれ。あんたの女を殺したのは奴だ。あんたを、その…そんなにしたのも…
デント
ジョーカーはただの狂犬さ。奴を檻から出した連中に、私は用があるんだ。
マローニはデントを見る。おびえている。
デント(続けて)
ウェルツはもう始末したが、お前がゴードンのチームに潜り込ませたもう一匹は誰だ?レイチェルを車に乗せたのは?彼女が信頼してた人間だよな?
マローニ
言えば逃がしてくれるのか?
デント
少なくとも損にはならんよ。
マローニ
ラミレスだ。
デントはコインを取り出す。ピストルの安全装置を外し…
マローニ(続けて)
約束したじゃないか…
デント
損にはならん、と言っただけだ。
デントはコインをはじく。見る。きれいな側だ。肩をすくめる。
デント(続けて)
運のいい奴め。
マローニは腑に落ちない表情。デントはコインをもう一度はじく。結果を見下ろす。首を振る。
デント(続けて)
だが彼は違うな。
マローニ
誰のことだ?
デントはニヤリと笑う。シートベルトを着ける。
デント
お前の運転手だ。
デントは間仕切りに映っている運転手の影に、銃口を押し付ける。マローニは必死で上体を前に伏せる。デントが発砲する。
屋外。橋。暮れ方。
リムジンは橋から飛び出し、運河の上にふわりと舞ってから、コンクリートの土手に激突してパンケーキのように潰れる。