第五十三話「ダム」 “Dam” 




(初回放映 1997年12月5日 ゲスト:チャールトン・ヘストン)

(アヴァンタイトル:スペースゴーストが愛機ファントム・クルーザーで、自己啓発テープを聞きながら宇宙を飛んでいる)

エコーその他、様々なエフェクトのかかったサイバーかつニューエイジな女声(以下「声」):…そして何故現在スーパーヒーローたちが人生の岐路に立ってい るのかは容易に分かるでしょう。成功を望みつつも、伝統的なスーパーヒーロー像に囚われ、今日の社会構造とますます食い違いが出てきているのです。
スペースゴースト:ふむ、それで…
声:これは、スーパーヒーローが成功するための七つのルールです。良かったら私の後について繰り返してください。
ス:よろしい。
声:その一。私の人生は私が決める。
ス:私の人生は私が決める。
声:その二。私のエネルギーは、私が自分で選んだもの。
ス:私のエネルギーは、私が自分で選んだもの。
声:その三。誰もあなたに無理矢理劣等感を抱かせることは出来ません。
(ファントム・クルーザーが怪しいノイズを発し始める)
ス:むっ、何だこれは?
声:その四。あなたがいつ栄光の時代を迎えるかは、誰にも分かりません。
ス:????おいおい、いい子だから今日は勘弁してくれ。だめだ、操縦不能か。(船体が猛烈に揺れ始める)
声:その五。人生の一瞬一瞬を大切に味わいましょう…
ス:黙れ、この馬鹿テープめ!

(オープニングテーマに合わせて流れる、一昔前のやたらテカテカしたオモチャっぽいCGによるスペースゴーストの主観映像:小惑星群の間を擦り抜け、ク レーターだらけの小惑星にポツンと立っている放送局へ。裏に回ったと思うと壁を突き破って侵入。沢山の厳重なドアを抜け、何度も曲がり、障害物を躱し、デ スクで居眠りしている熊のような守衛の前を抜けてスタジオへ。)

ス:(スタジオ内。透明状態から颯爽と姿を現しつつ)一般市民諸君、ご機嫌いかがかな!私がスペースゴーストだ。今夜のゲストはアカデミー賞俳優、チャールトン・ヘストンだ。
ゾラック:俺は今日、虫の居所が悪いぜ。
ス:それは結構。
モルター:俺も。
ス:ほう、そうかね。
モ:覚悟しろ。とにかく機嫌が悪いんだからな!
ス:それは良かった。
モ:もう沢山だ。もうこんな仕事嫌なんだよ。
ゾ:そうだ!やめちまおうぜ!
モ:あんたが何を言っても無駄だからな!
ス:承知した。
ゾ:俺たちのペースに引きずり込んでやるぜ!
モ:そうだ!絶対そうしてやる。あんたが嫌だと言っても…
ゾ:自分の無力を思い知れ!
モ:(邪悪な笑い)そうだ!
ゾ:いいぞ!
ス:…私のデスクに行ってもいいかね?
ゾ:やれるもんならやってみな。
ス:(透明になってデスクまでテレポートする)さあ着いたぞ、私の席だ。
モ:悪運の強い奴め!
ゾ:次も出来るとは思うなよ。
ス:悪役の諸君、私の言葉を聞きたまえ。
ゾ:やなこった。
ス:君たちが何をしようと、私の月を軌道から外すことも、満ち満ちる私の幸福を損なうことも出来ないのだよ。
モ:何の話だ?
ス:大宇宙の存在・スペースゴーストは今…完璧で…静かだ…
ゾ:アホか!
ス:…まさに明鏡止水。諸君、我らのハートを同期させようではないか。
ゾ:やだ。
ス:モルター、私はいつゲストを迎えてもいいぞ。
モ:(ブツブツと)あいよ。

(モルターが調整卓のレバーをガチャンと入れると、チャールトンの映ったモニターがスタジオの天井から降りてくる)

ス:ようこそ、一般人よ。
チャールトン・ヘストン:(降りてくるモニタの中で)今晩は、スペースゴースト。
ス:さあ、すべての人々に対して君が何者であるかを示すのだ。
チ:(沈黙)
ス:さあ。
チ:私はチャールトン・ヘストン。
ス:そう!我々が初めて迎えるアカデミー賞受賞者だ!
チ:そうなの?
ス:そう。
チ:わお。
ス:私もこの番組の仕事でアカデミー賞を貰えると思うかね?
チ:うーむ…率直に言ってもいいかね?無理だ。
ス:私もあのトロフィーが欲しいんだよ、チャールトン。
チ:なるほど?
ス:君のトロフィーが欲しい。持って来たまえ!
チ:わかったわかった。
ス:うおおおおお!!やったぞ!私を見ろ!オスカー受賞者スペースゴーストだ!ぃやっほう!
声:(虚飾を求める者は自分を讚えますが、自己実現を果たした個人は他人を讚えます)
ス:あ、そういうものかね。…うん、チャック、君もなかなかのもんだよ。私は…ところでチャックと呼んでいいかい?
チ:もちろんいいとも。
ス:「チャっくん」は?
チ:どうしてもと言うなら。
ス:いやいやいや待て待て待て、「チェストン」はどうだ?つまりだな、君のファーストネーム「チャールトン」と名字を融合してだね…
チ:あー、駄目だ。それは断る。
ス:(間)「駄目だ、それは断る」なんて言うのは生き方として良くないんだよ。いつ何時でも「イエス、大いに結構」と言うように心がけないと。
チ:ああ、なるほど。
ス:「不可能だ」という言葉は本来、間違っているのさ。あれは本当は「ふっ、可能だ♪」(どアップで自信に満ち溢れたスマイル。キラーン!と効果音付きで輝く白い歯。)という意味なんだよ。
チ:……君は、いつも一人なのかい?
ス:敵ならここにも何人かいるさ。(だんだん小声になりつつ)だが……ご存知の通り…私には、友人が………いない。
モ:その通り!
ゾ:誰が友達になるかってんだ!
モ:もしあいつの友達かと訊かれたら、俺は力一杯 "No!" と言うね。
ゾ:そういうこと!
チ:(スペースゴーストに)寂しくないかね?
ス:パーティーに行くさ。
チ:あ、パーティーね。
ス:頭の中の。
チ:うん、君は正体をそこに隠しているような気がする。
ス:私の頭の中では年中パーティーをやっているのさ。ときどき近所から苦情が出る。音楽のボリュームを下げろってね。だがそれは出来ない相談だ。なぜなら私の頭にはボリュームのつまみが付いていない。
チ:いやいや、分かるよ。私は…うん、それはそれでいいんだ。つまり…話題を変えようじゃないか。
ス:(中空を見つめながら)え?なんだって?パンチが切れた?分かった、すぐ行くよ。

*パンチ…パーティーには付き物の、果汁系の甘ったるいソフトドリンク。前のバイト先ではパンチボウルというガラス製の巨大なドンブリのようなものに、市 販の「パンチ」(一応オレンジ系だが、酸味がほとんど無くてウルトラくそ甘)とジンジャーエール(これも十分甘い)を一対一で注ぎ、豪快に氷を入れてかき 混ぜていた。これをガラス製の小さなコーヒーカップのようなもので何杯も飲むことによって多くのアメリカ人は談笑や舞踏に必要な糖分を得るようだ。それゆ えパーティーの最初から最後まで、パンチだけは切らさぬことが肝要である。

モ:おい、誰と話してるんだ?
ス:いやお待たせ。実は私には無限のパンチを供給する能力があるんだ。
モ:俺にもちょっとくれ。
ス:パーティー専用だ。
チ:ふむ。
ス:私の頭の中の。
ゾ:(溜息)ちゃんとインタビューしろよ!

ス:君は十分な酸素を摂取しているかね、チャック?
チ:もちろんだ、いろんな大気の中で上手く呼吸できる体質でね。
ス:猿の惑星でも?熱い猿ほど香ばしい匂いのするものはないらしいね。
チ:あの映画で変だったのは、ランチの時はゴリラが全部同じ食卓に座って…
ス:(笑いだす)
チ:いや冗談じゃなくて、本当に。
ス:なるほど?
チ:ゴリラは全部一つのテーブルに座って、チンパンジーは全部別のテーブルに座って、オランウータンも別のテーブルに座るんだ。
ゾ:(チャールトンが喋っている間に雑音を立て始める)あ゛~~~~~~~~~~!
ス:(ゾラックに)おい、やめたまえ!
チ:それで、人間は…
モ:(チャールトンのセリフにかぶせて)ご゛~~~~~~~~~~~~!
ス:やめないか!今日は助手達の機嫌が悪くて済まないね、チャック。
チ:ああ、そうみたいだね。
ゾ:(雑音を出し続ける)
モ:(上に同じ)

(雑音の中での会話)

ス:今日はずっとこの調子なんだ。
チ:ああ、よく分かるよ。
ス:一緒に深呼吸してくれ、チャールトン。
チ:わかった。
ス:(深く息を吸い込み、そして吐き出しながら)嵐の日もあるさ。
チ:ふむ。
声:(賢明な人は混乱を避けて通るものです)

(しかし雑音は収まらない)

ス:うおおお!(我慢できなくなって腕のビーム発射装置でゾラックを狙う)
ゾ:あ゛~~~~!忘れるな、復讐は弱者が逃げ込む罠だぜ。
声:(ゾラックの言う通りです、スペースゴースト。)
ス:一発だけ撃たせてくれ。
声:(いけません、争いの次元を越えるのです。)
ゾ:な、「声」もそう言ってるだろ。
声:(あなたはまだ努力が足りないのです。)
ス:頼むか…
声:(駄目です。)
ス:一ぱ…
声:(駄目です。)
ス:(溜息)分かったよ。
チ:(ゾラックにビームガンで撃たれながら)こ、こら、やめろ、やめろったら…
ス:この緑色の化け物め!(ゾラックにビームを放つ)
ゾ:おい、なんだ、やめ…(爆発する)
声:(復讐は弱者の逃げ込む場所です。)
ス:(片手で顔を覆いながら)分かってるさ。
ゾ:(黒焦げになって)(咳)バーカ!(咳)

ス:しょせん存在とはすべてカオスなのだよ、チャック。力を有する者はこれを理解せねばならん…
チ:ふむ。
ス:そして烏合の衆の頭上に鷲のごとく君臨するのだ。
チ:わお。
ス:爪を剥き出し、いつでも襲いかかれるように。
チ:非常に鋭いね、スペースゴースト。私はまさか…
ス:私がニューエイジの精神を備えているとは思っていなかったのかね?ふふ、驚きたまえチャック、(椅子から立ち上がってマッチョなポーズを決めつつ)私は90年代の男なのだよ。
チ:君にはあるかね、その…
ゾ:(画面外から)才能?
チ:…何といえばいいか…
ゾ:身分?知性?
チ:正式な教育を受けた経験が。
ス:「正式な」とはどういうことだね。
チ:いや、べつに…
モ:(調整卓のレバーを動かすと、チャールトンが早送りでキュルキュルと喋り出す)
ゾ:ゲシャシャシャシャ…
モ:ごはははは…
ス:ふむ、大人の意見だ!
ゾ:スピード落としてみろ!ブキミな声になるぞ!
モ:(再びレバーを動かす。チャールトンが牛のよだれのように喋り出す)
ゾ:ゲシャシャシャシャ…
モ:ごはははは…
ス:(のろのろと動くチャールトンの口を見て)おい、あの歯を見ろ!待てよ、あれは…
ゾ:ほうれん草だ!
ス:(モニタ上のチャールトンにビームを放ち、通常速度に戻す)君、デンタルフロスは使わないのかい、チャック?
チ:ばれたか。たまにしか使わんよ。
ス:どうだ!私はフロスを使ってない口臭は二マイル向こうからでも嗅ぎ分けるのだ。私の超能力の一つだよ。
チ:うむ、わかった、わかった、もっと規則的にフロスを使ったほうがいいのだな。
ス:私はこの能力についてはあまり話さないんだ。あまり褒められた能力じゃないからね。しかしそれでも私の能力の一つではある。
チ:あー、君は、完璧な英語を話すが、読むことは出来るかね?
ゾ:(画面外から)あのバカに出来る訳ないじゃん。
ス:テープで売ってる朗読本は好きだよ。
チ:駄目駄目駄目駄目、そんなんじゃ駄目だ、シェークスピアはどうだね?
ス:テープの本はどうだね?
ゾ:駄目。
チ:駄目だよ。シェークスピア、これに尽きるね。シェークスピアを知ってるだろ?
ゾ:しらねー。
ス:会ったことはないね。
チ:そうじゃなくて…(手で顔を覆いながら)彼の書いたものは知ってるだろ。
ス:私の育ったところに劇場はなかったのだよ、チャック。労働は大変だった。一日中網を繕ったり、魚の鱗を取ったり。魚はどんな部分も無駄にしないんだ、チャック。丸一匹、全部使うんだよ。
チ:それは本当かね?
ス:(笑う)もちろん冗談さ!
チ:はあ。
ス:(笑う)宇宙で漁業とはね!ところで訊きたいんだが、「十戒」の続編に出ることは考えたことがあるかね?
ゾ:アホ…
チ:いや、ないよ。
ス:続編は撮らない主義なんだね?
ゾ:そういう映画じゃないだろ、バカ。
チ:十戒なんだから、あれ以上増やせないよ。
ゾ:汝、人を嗅ぐ前に己が性格を何とかしやがれ。
ス:(笑う)汝、人を嗅ぐ前に己が性格を何とかしやがれ。
ゾ:(嘲笑)おまえのこったよ、間抜け。
チ:あー、その…
モ:汝…ためらうなかれ。
チ:最初の十個にこだわりたいんだよ私は。
ゾ:汝、古い戒律にこだわるなかれ!
ス:ゾラックよ、これ以上戒律を増やすならば汝はビーム攻撃されるであろう。
モ:ゾラックを攻撃するなかれ、さもなくば我を攻撃することとならん!
ス:おい、みんな落ち着くんだ。
モ:汝落ち着くなかれ。
チ:これはどうかと思うんだが…
モ:汝ためらうなかれ!
ス:(モルターをビームで撃つ)
モ:(モニター越しにビームを喰らって、調整室の床に仰向けに倒れたまま)ぐがあああ、畜生…

ゾ:あーあ、やっちまいやがった!
モ:もう口きいてやらん攻撃、開始!
ゾ:もう一言もしゃべらねえぞ!
ス:大いに結構。
モ:現時点をもって、諸君…沈黙だ。
ス:(誰かがなにか言うのを待っている。大窓の向こうから聞こえる、ごぉぉぉぉ…という宇宙の音。)
ゾ:(にらめっこのような表情で沈黙。触角から出る電波のかすかなノイズ。ときおり巨大な目のまばたく音。)
ス:おいおい君たち、本気かね。(誰も何も言わない)なあ、なにか言ってくれよ!
ゾ:(さっきと同じ絵で沈黙)
ス:なんか言えったら!
モ:(鉄塊のごとく沈黙)
ス:チャック、まさか君まで…
チ:(黙ってうなずく)
ス:ええい、全く!(しばし考えて)みんなアイスクリームは欲しくないかね?ゾラック?アイスクリームだよ?
ゾ:(さっきと同じ絵で沈黙)
ス:私のおごりだよ、モルター?
モ:(巌のごとく沈黙)
ス:(ゆっくりと、誘惑的な声で)ピスタチオ。バター胡桃…
モ:(石像のごとく沈黙)
ス:ガムは要らんかね?
ゾ:(反射的に)ガ…!!!(すぐ我に返り、慌てて目をそらす)

声:(何をしているのです?)
ス:(静かに)沈黙の儀式だ。
声:(そんなことをしている時間はありません。すぐにフーバーダムを破壊しなさい。それがあなたの運命なのです。)

*フーバーダム:コロラド川の巨大ダム。ネバダとアリゾナ州にまたがる。

ス:もし捕まったら?
声:(あなたはスペースゴースト、万人に愛されるスーパーヒーローです。誰があなたを疑うでしょう?)
ス:そうだ、私はスペースゴースト!これぞ我が運命!
声:(さあ急ぎなさい!)
ス:パンツはどうしよう?
声:(なんですって?)
ス:わ、わ、私のパンツだ!
声:(あなたのパンツなら問題ありません。さあ早く!)
ス:ちょっとだけ。チャールトンにさよならを言っていいかい?
声:(やれやれ、誰かに先を越されてもいいんですか?)
ス:わかったわかった!(モニタに向かって)あの、チャールトン、私は行かねばならん。子供たちをよろしく。ネネ、ネバダ州以外の。(しどろもどろ)
チ:オーケー、スペースゴースト。(手を振る)任せてくれ。
ス:(飛び去る)
(空撮。緊迫した音楽とともに、空からフーバーダムに迫る。)

~ここでコマーシャル休憩~

(空撮。凄まじい水害の映像。水浸しの住宅地。屋根を残して泥水に沈んだ自動車。かすかに聞こえるパトカーのサイレン。)

ス:(デスクに舞い降りる。すでに番組は終了して無人のスタジオ。)えーと、諸君、ご機嫌よう。わ、わ、私は逃げねばならん。(また飛び去る)

(画面は黒くなり、スタッフロールが始まる。以下、音声だけで進行)
(タイヤを軋ませて到着するパトカー。ドアの開く音。)
警官:(拡声器で)そこのお前!
ス:人違いだ!
警:さあ、ここに来い。さあ、どうしてほしい?
ス:(揉みあう音)ぐわっ!
警:自分の身体から手を離せ。
ス:運命だったんだ、分かってくれ!
警:次はないぞ。腰から手を離せ。
ス:これは武器じゃない、透明化ベルトだ。
警:分かった分かった。だから大人しくしろ。
ス:君らには大義というものが見えていない!
警:暴れるな。分かったか?
ス:政府とメディアに目を潰された哀れな犬どもめ!
警:逆らうなと言ってるだろう。
ス:君たちは全く分かっとらんのだ。
警:足を広げて、車に手をつくんだ。ベルトに触るな。
ス:わ~~~~ん!!!(手放しで泣き始める)
警:君には黙秘の権利がある。無駄口を利くと法廷で不利になるかもしれんぞ。君には弁護士を求める権利がある。こら、マントで顔を隠すな…

《第五十三話・終わり》