第六十三話「チャイナタウン」
初回放映 1998年9月11日
ゲスト・スター: タイラ・バンクス/レベッカ・ロメイン

(待機中)



スペースゴースト:(いつものように半透明状態からスタジオに出現しながら)諸君、ご機嫌よう。見よ!我こそが宇宙と万物の王者、スペースゴーストだ。
ゾラック:質問。
ス:今夜お送りするアニメーションと実写の粗雑な混淆物において紹介するのは、タイラ・バンクスと…
ゾ:しつもーん!
ス:頼むから黙って聞きたまえ。そして、レベッカ・ロメインだ。
ゾ:質問!
ス:質問は番組の後にしてくれたまえ。
ゾ:公式声明は?
ス:声明はないよ。
ゾ:コメントは?
ス:今回特にコメントはないよ。記者諸君、わざわざ集まってくれてすまんね。
(スタジオの照明が妙な具合に点滅し始める。調整室では、実写の犬・ラッグズが調整卓に飛び乗って脚でボタンを押す。いきなりオープニングの代わりにエンディングクレジットが流れだす。)

(エンディング終了後、気まずいスタジオ)

ゾ:(触覚からいつものみょいんみょいん音を出しながらスペースゴーストを睨む)
ス:(ゾラックを睨み返す)
ゾ:俺はゾラック!不正の帝王!我にひれ伏すがよい!
ス:(ゾラックを見つめる)
ゾ:(溜息をつき、目をそらす)
ス:それでは最初のゲスト、タイラ・バンクスだ!(いつものようにゲストの映ったモニタがキュルキュルと音を立てて天井から下がってくるのを待つが、何も起こらない。)
(いきなりゾラックの席の方からめちゃくちゃな楽器の音が聞こえてくる)
ゾ:うわーー、こら!(ラッグズがゾラックのキーボードの上に座っている)やめろ!(ラッグズはキーボードの上を歩き回って音を立てる)
ス:ゾラック、新しいディレクターに向かってその挨拶はないだろう。
ゾ:(キーボードをラッグズに占拠されたので、楽器の足下にしゃがんで睨む。)モルターはどうしたんだよ?
ス:え、誰だって?……ああ、彼はトレードした。
ゾ:この毛深い肉の塊と…か?(ようやくラッグズが鍵盤から跳び降りる)
ス:この「毛深い肉の塊」はだな、ゾラック、お笑いの呼吸にかけては業界最高の、優秀なディレクターなのだよ。(ラッグズが歩いてきてスペースゴーストのデスクの正面、つまり画面の真ん中に寝転がる)もちろん舌だけで全身を奇麗にできるぞ。ジャークターだってそこまではできんだろう。
ゾ:犬に演出ができるわけないだろ。
ス:じゃあカマキリはキーボードを弾けるのかね?
ゾ:(キーボードを弾き、ひどい騒音を立てる)



ス:ゾラック、休憩時間は終わりだ。
ゾ:(騒音を立て続ける)
ス:(腕のレーザーバンドでゾラックを狙うと、突然騒音がベタなムード音楽に変わる。にやりと笑って腕を降ろす。)
ゾ:(すぐさま騒音に戻る)
ス:(破壊光線をゾラックに叩き込む。ゾラック爆発)
ゾ:(黒焦げになって咳をする)



ス:ふふん。(劇的なBGMと共に)誰もが演出などできるものかと言ったこの犬が、人々の予想を超えてこのショーを引き継ぎ、前人(ラッグズがスペースゴーストのデスクに跳び乗る。犬の尻でスペースゴーストの口元が隠れて、モフモフした声になる)未到のショーを作り(スペースゴースト、前が見えないので椅子から立ち上がる)出すのだ。(ラッグズに)さあタイラを取ってこい!(ラッグズ、机から跳び降りる)いい子だ!



ゾ:で…モルターを雇ったのは誰なんだ?

(モルターの新しい職場)



実況アナウンサー:(日本語でべらべらしゃべった後…とトランスクリプトには書いてあるが、これは中国語だぞ)…モル・ターーー!
モ:(ベンチで所在なげに)ほへ?

ゾ:おいスペースゴースト、お前、だまされたんだよ。(笑う)
ス:ほう。ラッグズのほかにムーキー・ウィルソンとオマー・モレノ(たしか有名な野球選手だったような気がするが、野球選手なので私にはどうでもいい)、それに袋一杯の猫を受け取ったと言ったら、やっぱりだまされたと思うかね?
ゾ:わお、そいつらはどこにいるんだよ?出せよ!
ス:ムーキーとオマーはもう寝てる。
ゾ:ふんふん、それで猫たちは?
ス:猫?
ゾ:猫も貰ったんだろう?
ス:あ、そうそう。
(局内某所:大昔のアニメから取り込んだらしい黄色い巨大な装甲モンスターが、豆粒のような三匹の実写の小猫を追い回している)
ス:それでは本日最初のゲスト、タイラ・バンクスだ!(モニタが下がってくるのを待つが、何も起こらない)
ゾ:(スペースゴーストを睨む)
ス:(透明化して調整室へテレポートし、ラッグズに)あの合図でモニタを下げるんだよ。
ラッグズ:(スペースゴーストに尻をむけて、まったく聞いていない。そのまま歩み去る。)
ス:なるほど、まずマニュアルとかをチェックしようということだね…私がやって見せよう。(調整卓に近付く)ゾラック、例のレバーはどこだ?(モルターはいつも一本のレバーを上げ下げするだけですべての操作をこなしている。キャラクターの動きはほとんどが元祖スペースゴーストシリーズから取り込んだものなので、おそらくそれ以外の絵が無いのだろう)
ゾ:俺はゾラック!闇の帝王…
ス:ええい、もうなんでもいい!(あるボタンを押した途端に感電して跳ね飛ばされる。タイラがモニタに登場)
タイラ・バンクス:(笑う)
ス:(床に尻餅をついたまま)タイラかい?
タ:そうよ。
ス:(デスクまで飛んで戻る)
タ:(ゾラックに両手で投げキス)
ゾ:(ドキドキして喘ぎ始める)
ス:(椅子にどすんと座り)淑女および紳士の方々……うるさいぞ、ゾ…
タ:全宇宙の皆さん今晩は。私はタイラ・バンクスです。
ス:タイ・ラ。ラー!これはエジプトの太陽神だ!つまり君はエジプト人だね。
タ:あの、私、じ…
ス:(さえぎって)君自身も知らないと思うけど、ラーってのは実はロジャー(典型的なアングロサクソンの男の名前。どう考えてもエジプトとは無関係)の略なんだよ。
タ:それはとてもい…
ス:(さえぎって)これはまた、「万歳(Cheers)!」といった意味のスポーツ用語でもある。「チアーズ」を見たことがあるかね。あれはとても面白かった。
タ:(なにか言おうとして口を開ける)
ス:(さえぎって)これも君は知らないと思うけど、「チアーズ」は実際に観客をスタジオに入れて撮影されたんだよ。
タ:(うなずく)えと、そんな感じの場所がわた…
ス:君が信じるかどうかは分からないけどね。
タ:その、わ…
ス:まじめな話、私は信じてないんだけどね。
タ:でも、そ…
ス:それを聞いて思い出したんだけど、君の好きそうな話があるんだ。(ハープの音とともにゆらゆらと場面転換。郵便局にいるスペースゴースト)

ス:切手を一枚くれたまえ。
局員:32¢になります。
ス:いま一銭もないんだ。

(場面転換。スタジオに戻る)

ス:(一人でおかしそうに笑って)実話だよ。
タ:うーん、私は知…
ス:私がスケッチが好きだという話はしたっけ?
タ:いいえ。
ス:どっぷりはまってるんだ。私が君の本質を色鉛筆で写し取るあいだ、じっとしていてくれるかな。
タ:(スペースゴーストが絵を描いているあいだ、笑顔を作って居心地悪そうにしている)
ス:(長い間鉛筆を動かしたと思うと、顔を上げてモデルを見て、また紙に注意を戻す)たしか君はジョン・ステイモスと仕事をしてるよな。そのへんの話も面白そうだね。
タ:それは私じゃなくて、次のゲストよ。(次のゲストであるレベッカ・ロメインは、ジョン・ステイモスと1998年に結婚し、現在レベッカ・ロメイン・ステイモスと名乗っている。私はX-MEN映画でしか彼女を見たことがないので、イメージは「全裸で青い人」である。)
ス:残念、外れたか。(手元のメモを見る)ここには「タイラにジョン・ステイモスのことを訊け」とある。
タ:「タイラにジョン・ステイモスのことを訊け?」彼は親友のフィアンセで、私が知ってるのはそれだけよ。
ス:(メモをにらみつけて、心の中で)カードの順番が目茶苦茶になってるぞ。(口に出して)さてはゾラックの仕業だな!
ゾ:そう、この俺、ゾラックの仕業だ!エメラルド色の悪党!権利を損なう男!敏感な皮膚をつねる奴!
ス:…しょせんそんなものか。
ゾ:うむむむ…モルターがいないと調子が出ねえ…

(叙情的なピアノの前奏が始まり、ゾラックは詩を朗読する。朗読に合わせて字幕の上を小さなモルターの頭が弾んでいく)

ゾ:さようなら、俺の溶岩の友達
  家畜小屋にいたころから
  俺たちはお互いを知っていた
  いっしょに丘や樹にのぼって
  暴行や虐待を学んだり
  ハートや膝をすりむいたよな

ス:…君もすっかりヤキが回ったな。

(調整室にて)

ラ:わん!わん!わん!わん!わん!わん!
ゾ:(調整卓のモニタごしに、例のごとくみょいんみょいんと妙な音を立てつつラッグズを睨む)
ラ:わん!わん!わん!わん!
ゾ:ふぐはははははは!(邪悪なる笑い)
ス:奴はなんて言ったんだ?
ゾ:なんか使い方の分からない装置があるって言ってるぞ。
ス:(顔を上げてモデルを見ては、また鉛筆を動かす)
タ:(居心地悪そうな笑顔で固まったまま)スペースゴースト、あなたってと…
ス:私は本当にクリエイティブなんだ。あふれる創造性ゆえに眼帯をつけることさえある。
タ:それはど…
ス:しかも、私はミステリアスだ。みんな私のことを不思議がる。
タ:そうね。
祖:(スケッチを終えて)オーケー、見てくれたまえ。(「たいら!」と題された、へたくそな似顔絵を見せる。似てないうえに、オバハンくさくて不細工である。こういうタッチをどこかで見たと思ったら、日本の新聞の日曜版などで「趣味がなくて困っている人間向きの趣味」として宣伝されている似顔絵講座とかの、妙に手慣れてはいるものの決定的にセンスが古い「会員の作品例」に似ているのだ。)これが君だ!上手いだろう?
タ:(苦痛をこらえるような顔で)まあまあね。
ス:背中にでっかいニキビができたことってあるかい?
タ:(気持ち悪そうな表情)

(またしても勝手にエンディングクレジットが流れだす)

ス:タイラ?タイラ…(コントロールルームへテレポートする)
(ラッグズがなにかを噛んでいる)
ス:なんて悪い子なんだ、この駄目ディレクターめ…何を噛んでるんだ…私の歯の矯正具じゃないか!

(外野手として働くモルター。電子オルガンの音楽と観衆の声。)



モ:たのむから三振してくれ、三振してくれ、三振してくれ、三振…(カキーン!!)オーノー!…頼むからスタンドに入ってくれ、スタンドに入ってくれ、スタンドに入ってくれ、スタンドに入ってくれ…(ボールが目の前に落ち、モルターを通り過ぎて転がっていく。突っ立ったまま動けないモルター)
誰かの声:モルター!(中国語で罵倒)

(スタジオ)

ス:それでは次のゲスト、レベッカ・ロメインを迎えよう!
(モニタに妙な図形が映るが、レベッカは出ない)
レベッカ:(声だけ)今晩は、スペースゴースト!
ス:レベッカ?どこにいるんだ?
レ:ここ、ここ、ここよ!
ス:なんてことだ!まさかそんな…私は視覚を失ってしまったのか…それも両目同時に!
ゾ:降りてこいよ、サンドラ・ディー。
ス:(正面、すなわちもともと誰もいない方向を向いて)ゾラック?君なのか?我が古き良き悪のバンドリーダーよ!(ふとゾラックのいるスタジオ右手を見て)おおゾラック、そこにいたのか。見える、目が見えるぞ!これは我が人生最高の日だ!
ゾ:(スペースゴーストが話しているあいだに彼に近付き、ゲップをして彼に吐きかける)
ス:そういうのがクールだと思ってるのかね。

(調整室。ラッグズが絨毯を噛みながら首を振って唸っている。アメリカにおける「駄犬」の象徴的行動。)

ス:(調整室にテレポートして現れる)ミス・ロメイン?
レ:私はどこ?何がどうなってるの?
ス:こちらスペースゴーストだ。どうぞ?
レ:今晩は、スペースゴースト。
ス:面倒をかけてすまないね、レベッカ。誰かが機械の設定を目茶苦茶にしたらしいんだ。どうぞ?
ラ:わん!わん!
レ:あれは誰?あの変な音は?
ス:何でもないさ。もう少し我慢してくれたまえ。以上、交信終わり。(調整卓のボタンを押し、レベッカをスタジオのモニタに送り込む)
レ:ああよかった、ありがとう。
ラ:(まだ唸りながら絨毯を引きずり回している)
ス:モルターの方がまだましだったぞ!(空を飛んでどすんとスタジオの自席に戻り)本日二人目のゲスト、スーパーモデルのレベッカ・ロメインだ!
レ:ありがとう、わくわくしてます。どうも。
ス:はいはい、私のことはもういいから君について話そう。さて、時々ファッションショーのモデルをやってるんだって?
レ:はい、そうです。
ス:ところで、花道(runway=滑走路の意あり)を歩いてるときに…
レ:はあ…
ス:XGシリーズのパルス変動型ドノヴァン機のように走り出してそのまま離陸したくなることはないかね?
レ:その、あそこを歩いてるときって、パンティー一枚しか身体に付けてないことがあるの。
ス:うわー!(椅子ごと派手にひっくり返り、脚しか見えなくなる)
レ:大変…大丈夫?
ス:(立ち上がりながら)おじさんをびっくりさせないでくれ。
レ:スペースゴースト、あなたはちょっと凄味があるわね。あのがっしりした顎とか、あの、あの、あの、あの、鋭い目とか。
ス:ああ。ところで私のボリューム感溢れる上腕二頭筋はどうかね?



レ:(笑う)えーと、それも、それも凄いわ。
ス:本当に?お世辞じゃないだろうね?
レ:私、私はその、あなたが好きなの、スペース…

(またしてもエンディングクレジットが勝手に始まる)

ス:レベッカ?待ってくれ!(コントロールルームへテレポートする)
ラ:わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!わん!
ス:(いいところを邪魔されたので怒り狂っている)我慢の限界だ。ディレクターはやめてもらう。マイナーリーグへ帰りたまえ。ゾラック、車を回してくれ。

(テープで音楽を聴きながらファントムクルーザーを操縦するスペースゴースト。助手席にラッグズが乗っている。ラッグズが吠え始めたので音楽のボリュームをどんどん上げ、しまいには音がゆがみ始める。)



(まだ野球場の芝生にボヘーッと立っているモルター。ファントムクルーザーがすぐそばに着陸する。)

ス:モルター!乗るんだ!
(ラッグズを野球場に残して二人は離陸する。)
モ:七回エラーした!ううう…七回も!
ス:忘れろ、モルター。しょせんあそこはチャイナタウンだ。

(ファントムクルーザーが加速して空に消える)
(野球場の電子オルガンの音。)

誰かの声:モルター!!(さらに中国語の悪態が続く)