ノー・カントリー・フォー・オールド・メン(『老人にはキビシい国』)


よくわかる脚本
By John K.
The Editing Room の原文はこちら。
コーエン兄弟による本物の脚本はこちら。

フェードイン:
屋外。砂漠

トミー・リー・ジョーンズ(ボイスオーバー)
人生は無意味であり、何をしても無駄だ。この砂漠に虚しく広がる砂は、人の魂と魂の間の越えられぬ隔たりを表している。私の父はそれを知っていた。彼は老人だった。ここはもう彼の国ではない。まったく今時の若いモンは

屋内。警察署。

ハビエル・バルデムが逮捕され、事務手続きを待っている。

警官
よし、殺人53件、窃盗45件、「こいつ怖すぎ」等の苦情732件、「行動が意味不明」という苦情13件。その妙な髪型も何かの法律に引っかかるだろう。ま、当分臭い飯を食うんだな。

ハビエル・バルデム
(御都合主義パワーを発動させる)

なぜか拘束されていなかったので、ハビエルは椅子から立ち上がり、なぜか部屋にたった一人で油断しまくっている警官に後ろから近付き、手錠の鎖を使って首を絞める。それからハビエルはパトカーを盗み、たまたま車で通りかかった男を路肩に停車させて殺害し、車を奪う。

ハビエル・バルデム
これぞGTA映画の最高傑作。

屋外。また砂漠
一方その頃、ジョシュ・ブローリンは、まるで無法地帯のようなテキサスの砂漠で鹿を狩っている。

ジョシュ・ブローリン
この後すぐ俺も狩られる側になるという皮肉を味わってくれ。というかバチが当たったのかな。まあどっちでもいいか。(鹿を撃つ)

鹿
霊魂となってお前に復讐してやる!

突然ジョシュは『ブレイキング・バッド』に出てきそうなメキシコ人の一団に出くわすが、彼らは全員ジョン・ウー的な数の弾丸を喰らって死んでいる。

ジョシュ・ブローリン
さてはドラッグの取引で揉めたな。関わりあうと面倒だから、ここは跡も残さずとっとと消えてって、うひょー金だ!

ジョシュは誘惑金のぎっしり詰まったスーツケースを見つける。彼がそれを持って帰宅すると、妻のケリー・マクドナルドが待っている。

ジョシュ・ブローリン
ハニー、帰ったよ!

ケリー・マクドナルド
鹿を殺すのは楽しかった?

ジョシュ・ブローリン
もちろん。おまけにドラッグがらみの金がぎっしり詰まったスーツケースを見つけたよーん。

ケリー・マクドナルド
ううう。よりによって私の夫が、麻薬カルテルの金を盗むほどアホだったなんて

ジョシュ・ブローリン
平気だよぉ、カルテルがあれこれ根に持って復讐するなんて聞いたことないしさ

その夜遅く、ジョシュは事件の現場に戻るが、そこにやってきたメキシコ人の一団に見つかってしまう。

ジョシュ・ブローリン
俺は主人公だから、まあかすり傷ぐらいで逃げられるだろ。

ジョシュは悪漢どもから逃げ、いきなり砂漠に出現した河に飛び込み、無事逃げ延びる!しかし複数の弾傷と犬の噛み傷を負っている。

屋内。コンビニエンスストア
ハビエルは老いた店主からガソリンとナッツを買う。

老人
これで全部かい?

ハビエル・バルデム
うーん、そうだな、あとはタバコ1パックと宝くじ1枚、それから宇宙が我々の生を支配する出鱈目な確率に合理的規則を当てはめようとする人類の不毛な試みに関するコイン投げを介した考察を少し。あと急にミントガムが欲しくなった。

老人
とほほ。トゥーフェイスごっこは勘弁してくれ。

ハビエル・バルデム
俺の方法論は人知を超越している。宇宙の無慈悲な正義の代理人を務めているに過ぎないのだよ。俺はお前を殺さない、コインが殺せと言わない限りは。

老人
コインの賭けに勝てば殺さない?じゃあさっきの警官とドライバーは?

ハビエル・バルデム
えーと、あれはニヒリズムの殺人というやつだ。で、こっちはコインの殺人だ。さあ、表か裏か?

老人
表。

ハビエル・バルデム
当たりだ!おめでとう、老人よ。いずれ老い朽ちて死ぬまでの束の間、この無意味な次元での存在を続けるがよい。
(目を逸らしながらボソッと)
あと『投稿ロリっ子Club』を一冊。

老人
ぜんぜん誤魔化せてないわ、アホ!

屋内。ジョシュの家

ジョシュ・ブローリン
ハニー、帰ったよ。

ケリー・マクドナルド
よかった。いきなり夜中に起きだして出かけるから心配したよ。その血は?

ジョシュ・ブローリン
ホッケー。

ケリー・マクドナルド
ホッケー?

ジョシュ・ブローリン
ああ。テキサス伝統の深夜砂漠ホッケーに参加したのさ。さあハニー、すぐ荷造りをして、しばらく実家に帰ってくれ。俺はちょっと言えない用事があるから。

ケリー・マクドナルド
わかった。
(そのまま映画の9割から姿を消す)

ジョシュ・ブローリン
俺って良き夫だよなあ。

一方、トミー・リー・ジョーンズ保安官と助手のギャレット・ディラハントは例のドラッグ取引決裂の現場を調査している。

ギャレット・ディラハント
サム・ペキンパーばりの銃撃戦があったみたいですね。エルナン・コルテスだってこんなにメキシコ人を殺しちゃいない。例の殺人鬼ハビエル・バルデムが絡んでるのかな。

トミー・リー・ジョーンズ
かもしれん。だが我々ごときに謎が解けるとは思えんよ。しょせん警察の仕事というのはタイタニックが沈む時に甲板で椅子を並べ直してるようなもんだ。どう頑張っても、いずれみんな溺れ死ぬのさ。

ギャレット・ディラハント
でも税金泥棒って言われたくないでしょう。いちおう指紋とか、証拠物件とか、ブーツの足型とか採取しませんか?あと現場から持ち去られたものを推理するとか?

トミー・リー・ジョーンズ
何のために?ハビエル・バルデムに殺されるにせよ、空から落ちてきたピアノに潰されるにせよ、死はいずれ全員にやってくる。

ギャレット・ディラハント
しかし

トミー・リー・ジョーンズ
(ニヒる)

ギャレット・ディラハント
わかりました。

屋内。ホテル
自分を殺そうとする登場人物がどんどん増えてくるのを感じて、ジョシュはテキサスで最も安全な場所、すなわちハイウェイ沿いの安モーテルに身を隠す。

管理人
その部屋は一泊50ドルだよ、お客さん。連れはいるのかい?

ジョシュ・ブローリン
ああ、ヤバい金が道連れさ。だから建物の反対側にも一部屋借りることにするよ。追手が最初の部屋に来たら、金の詰まったスーツケースをエアダクトから別室に移動させられるようにね。

管理人
そんな手間かけるぐらいなら、海賊みたいに穴を掘って埋めた方がまだマシだと思うけど?銀行の貸金庫に入れて、誰も手を出せないようにするとかさ?

ジョシュはモーテルの部屋で少しだけ体を休める。一方、ハビエルは闇雲に車で走り回っている。

ハビエル・バルデム
これでは埒があかない。
(御都合主義パワーを発動する)

突然、車に載せていた追跡装置がジョシュの金を探知し始める。ハビエルはシグナルを追ってモーテルにたどり着き、例のイカす消音器付きショットガンと、ドアロックを吹き飛ばせる必殺の空気銃を取り出す。

ハビエル・バルデム
そういえば『怪しい伝説』がこの武器を実験して、「現実にはムリ」とか、夢のない結論を出しやがったんだよな。アダムとジェイミーには後でじっくりコイン投げをしてもらうから覚悟しとくように。

ドアロックを吹き飛ばすと、中にはメキシコ人がいた!

ハビエル・バルデム
(スペイン語で)こんばんは。

メキシコ人たち
こんばんは。

ハビエル・バルデム
これから なにが おきますか。

メキシコ人たち
とくに なにも おきません。わたしたちは もうすぐ しにますか。

ハビエル・バルデム
はい。

メキシコ人たち
これが じんせいです。

ハビエルは消音器付きのショットガンで彼らを殺す。クリーブランドあたりまで聞こえそうな轟音がするが、なぜか他の客は誰も起きてこない。

ハビエル・バルデム
やれやれ。題名は「メキシコ人にキビシい国」にした方が良くないか?さて、ジョシュの野郎はどこだ?

部屋を二つ借りるというジョシュのアホな作戦が見事に当たって、ジョシュは車に金を積んで逃げる!

ハビエル・バルデム
しまった、今日の御都合主義パワーを使い果たしたか。まあいい。次は絶対殺す!

一方、ギャレットとトミーはジョシュの家に行く。

ギャレット・ディラハント
保安官、奴の尻尾を掴みましたよ。ドアから押し入った形跡があるし、飲みかけの牛乳瓶が出しっ放しだ。これで、いろんなデータを照合できるでしょう。すぐハビエルを指名手配して

トミー・リー・ジョーンズ
無駄だよ。

ギャレット・ディラハント
一体どうして?

トミー・リー・ジョーンズ
(ニヒる)

ギャレット・ディラハント
保安官、ニヒってる場合じゃないでしょう。奴の指紋もあるし、DNA

トミー・リー・ジョーンズ
奴の顔がわからないだろう。いくら証拠を辿っても、本人をおさえなければ意味がない。

ギャレット・ディラハント
映画の冒頭でハビエルを逮捕した警官は、写真を撮らなかったとでも?少なくとも人相の情報ぐらいあるでしょう。

トミー・リー・ジョーンズ
無いよ。警察の仕事は無意味だと言ってるだろう。例えば失敗したリンゴスターみたいな髪型をしてるとか、そういう分かりやすい特徴でもあれば、ひょっとしてひょっとするかもしれんが。今わかっているのは、奴が最近牛乳を飲んだということだけだ。

ギャレット・ディラハント
じゃあ牛乳瓶だけでも証拠としておさえましょう。多分指紋がついてるし、唾液だって

トミー・リー・ジョーンズ
(ニヒルに牛乳を飲む)

ギャレット・ディラハント
この映画の濃いファン連中が、あなたは実はハビエルとグルなんじゃないかって言ってますけど、やっぱりそうなんですか?

屋内。高層ビル
ウディ・ハレルソンが、高層オフィスビルで実業家のスティーヴン・ルートに面会する。

スティーヴン・ルート
君は探偵だって聞いたよ。しかも「本物」の。これは事実かね?

ウディ・ハレルソン
いろいろ首を突っ込むのが好きでね。

スティーヴン・ルート
じゃあ私と、私の怪しい組織のためにハビエル・バルデムを探し出してくれるかね?

ウディ・ハレルソン
そいつは難しいな。あいつは勝手に無敵モードになったり、行きたい場所にテレポートしたりできる変態だぞ。

スティーヴン・ルート
じゃあこの場面は無意味だな。

ウディ・ハレルソン
そうでもないさ。あんたと俺のエピソードが加わることで、このアカデミー作品賞文芸映画の世界にさらに奥深さが増すってこともあるだろう。

スティーヴン・ルート
だといいのだが。

ウディ・ハレルソン
じゃあ俺は、えーと、用事があるんで。
(立ち去る)

ハビエル・バルデム
(魔法の箒にまたがって登場し)
よう。

スティーヴン・ルート
もうやだこんな仕事。
(顔面をショットガンで撃たれる)

屋内。ホテル

ジョシュ・ブローリン
やっぱりモーテルに潜伏するのはまずかったか。今度はちゃんとしたホテルに泊まったから、ずっと安全なはずだ。さて、例の金がぎっしり詰まったスーツケースを、初めてじっくり調べてみるとするか。発信機なんか仕掛けられてたら困るからな。でもその前にシャワーを浴びて、昼寝をして、税金の申告をして、書きかけの小説をちょいと進めておこう。

ジョシュはようやく札束に仕込まれた発信機を見つける。

ジョシュ・ブローリン
しまった。

ハビエル・バルデム
(タイムマシンに乗って出現し)
そうだ、観念しろ。

ジョシュ・ブローリン
まだまだ!いざ勝負!
(主人公パワーを発動させる)

ハビエル・バルデム
(御都合主義パワーを発動させる)

二人はショットガンでバカスカ撃ち合いを始め、ホテルや窓や通りがかりのドライバーや停車中の車や観客や近隣一帯が流れ弾を喰らって破壊される。

ジョシュ・ブローリン
(爆発でできたクレーターの中央に立ち、灰まみれで)
俺はまだ生きてるぞ!
(派手に昏倒する)

屋内。メキシコの病院
ジョシュが目覚めると、ウディが枕元に座っている。

ウディ・ハレルソン
やれやれ、あんたを見つけるのに苦労したぜってのは嘘だな。この映画であんたを見つけ出したのは、俺が28人目だ。そろそろ逃げ隠れするのをやめたらどうだい。

ジョシュ・ブローリン
あんた誰だ?

ウディ・ハレルソン
それが、自分でもよく分からないんだ。ヒットマンか、探偵か、雇い主は結局誰なのか、その目的も全然説明されないしな。とにかく、あんたから隠し場所を聞き出して金を取り戻すために来たのさ。

ジョシュ・ブローリン
言うもんか。俺が命がけで掴んだ金だ。おかげで罪のない人間が三人ほど死んだ気もするが、百万ドルは俺のもんだ。

ウディ・ハレルソン
だったら『続・夕陽のガンマン』みたいな血みどろの戦いがまだまだ続くぞ。ハビエルは御都合主義パワーを使い果たすまで追いかけてくる。そもそもだな、コーマック・マッカーシーの本をコーエン兄弟が映画化するって時点でハッピーエンドなんてあるわけないだろ。

ジョシュ・ブローリン
忠告には感謝しよう。さあとっとと失せろ。俺は手前ぇのケツぐらい自分で拭けるぜ。
(寝間着一つでフラフラと病院をさまよい出る)

ウディ・ハレルソン
哀れな馬鹿め。自分の状況が見えてねえな。

ハビエル・バルデム
(火と硫黄の匂いと共に現れ)
ま、よくあることだよ、ウディ。

ウディ・ハレルソン
うわー俺をどうする気だー!

ハビエル・バルデム
(ショットガンで狙いをつけ)
さあ、みんながお前の名前を知ってる場所に行くんだ。

屋内。ダイナー
ジャンル不明の怒涛の展開をひとまず措いて、映画はトミーが朝食を味わい、さらなるダメ保安官ぶりを見せつける姿を追う。

ギャレット・ディラハント
保安官、今度はいいニュースです。モーテルでメキシコ人のグループが死んでいるのが見つかりました。ジョシュの家と同様、ドアの錠が撃ち抜かれていました。またハビエルの仕業でしょう。すぐ現場検証に行って証拠を

トミー・リー・ジョーンズ
やめとくよ。

ギャレット・ディラハント
(ため息をついて)
どうしてまた?

トミー・リー・ジョーンズ
私が新聞で読んだニュースについて話したかな?老人ホームを経営していた若い夫婦が、しまいには入居者を殺したり拷問したりして、年金を横取りしていた。今の若い奴らは、昔の我々が考えもしなかったようなことをやる。つまりだな、統計的には20世紀に凶悪事件は大きく減ったが、それはともかく私の子供時代は最高で、他の時代は全部ダメなんだよ。

ギャレット・ディラハント
わかりました。そういうことなら変に達観する代わりにとっとと身支度をして、その、えーと、もうどうでもいいや、コーヒーをじっくり味わうことにしますよ。

トミー・リー・ジョーンズ
だいぶ分かってきたじゃないか。

ギャレット・ディラハント
でも、ジョシュの強情な奥さんには一応会って、なんとか守れないか話し合ってみませんか?

トミー・リー・ジョーンズ
やれやれ分かったよ、行こう。玉子を食ってからな。

屋外。テキサスのどっか辺鄙な田舎
夫が大冒険に出ている間、ケリーは愚痴っぽい母親を引き連れテキサス一円を旅している。

ベス・グラント
うんざりだよ。ジョシュ・ブローリン主演のリメイク版『オールドボーイ』(2013)を見た時から、この結婚はおかしな事になって、私にまでツケが回ってくるって分かってたんだ。あんなのと暮らしてたら不幸になるよ。

ケリー・マクドナルド
ママはジョシュをよく知らないだけよ。確かに何時間も、時には何日も居なくなるし、薄情だし、酒飲みだし、トレーラー住まいだし、何も打ち明けてくれないし、傷だらけでヨロヨロ帰ってきていきなりママと姿を隠せなんて言うし、理由も説明してくれないけど、それでも根はとってもいい人なの。

ベス・グラント
私は乳癌が見つかったわ。

ケリー・マクドナルド
ああ、そう。
(間)
ちょっと、この映画いつからトミー・ウィソーの『ザ・ルーム』になったのよ!

ケリーが荷物をタクシーから降ろしている間に、ケリーの母は謎のメキシコ人と話し始める。

ベス・グラント
今、私達は身分を隠してなきゃいけないんだけど、愚痴を聞いてもらえる?あなたは えいごを はなせますか?

メキシコ人
はい、奥さん。なんでも話してください。場所とか、時刻とか、名前とか、靴のサイズとか。なんでも聞きますよ。

ベス・グラント
いやね、ろくでなしの義理の息子ジョシュ・ブローリンがね、ラボックの近くのオンボロトレーラーに住んでるんだけど、変なスーツケースを拾ったのよ。それから私と娘にエルパソに行けって、だから今行くところなの。

メキシコ人
ほほう。で、そのジョシュさんは今

ベス・グラント
おそらくメキシコ国境近くのどこかに隠れて、GPSによれば北緯31.806度、西経106.583度あたりね。大抵安ホテルに泊まって、ブーツのサイズは10DNAサンプルも欲しい?

メキシコ人
(メキシコ全土の悪漢どもにメッセージを送りつつ)
はい、助かります。

屋外。ホテル
ジョシュは新しいモーテルに移ろうとしている。

ジョシュ・ブローリン
よし、今度こそ逃げ切ったな。しばらく国境のメキシコ側でほとぼりを冷ましたし、金も回収したし、発信機も捨てたし、ハビエルの姿も見えない。色々大変だったけど、やっと片がついたな。やっぱりポジティブな気持ちさえ持っていれば、いずれ全ては
(死ぬ)

ジョシュを殺したメキシコ人の一団が車で走り去る、まさにその時、トミーが現れる!

トミー・リー・ジョーンズ
ここは奴らを追跡するとかナンバープレートをチェックするとかした方がいいんだろうが、それはそれとして、まずは
(ニヒる)

トミーは未亡人になったばかりのケリーを慰めに行く。

トミー・リー・ジョーンズ
普通の監督なら、せめて主人公が死ぬ場面ぐらいちゃんと撮るのにな。ジョシュは立派な男だった。少なくとも画面上で死ぬぐらいの資格はあったよ。

ケリー・マクドナルド
いいんです。うちはそういう伝統ですから。さっき母も画面外で殺されました。

トミー・リー・ジョーンズ
イヤな伝統だなあ。こういう時は、全ては無意味であり、この世はとにかくダメだということを忘れないようにするんだよ。

ケリー・マクドナルド
いろいろありがとう。

ケリーは帰宅する。

ケリー・マクドナルド
あーもー最低。

ハビエル・バルデム
(床に塩で描いた輪から出現して)
話を聞こうか?

ケリー・マクドナルド
うげ。またショットガンでひどいことするんでしょ。

ハビエル・バルデム
もちろん!俺はジョシュに選択肢を与えた。金を渡せば奥さんには手を出さないと。そして奴は渡さなかった。だからお前の顔もショットガンで撃つ。

ケリー・マクドナルド
なぜ?ジョシュは死んだのに。死人の約束なんてどうでもいいでしょ。

ハビエル・バルデム
俺は契約を破らない。あ、スティーヴン・ルートは別な。奴は俺の雇用主だが、まあそれは忘れてくれ。あと俺は金の奪還に失敗した。つまり俺を雇う奴は馬鹿だってことだ。

ケリー・マクドナルド
じゃあ私のことも忘れてよ。ジョシュは死んだし、母も死んだ。『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』は打ち切りになった。私も死んだようなものじゃない。

ハビエル・バルデム
ふむ。じゃあまたコイン投げをして場面をダラダラ引き伸ばしてみるか?

ケリー・マクドナルド
もう沢山よ。ハーヴィー・デントごっこはどこか他所でやって。

ハビエル・バルデム
まあそう言わずに賭けてくれよー。

ケリー・マクドナルド
嫌。

ハビエル・バルデム
頼むよー。

ケリー・マクドナルド
嫌。

ハビエル・バルデム
今「表」って言った?

ケリー・マクドナルド
言ってない。なんでそこまでコインに

ハビエル・バルデム
(例によってショットガンで話を終わらせ)
外れだ!いや人生は虚しいねえワハハハ!

丸腰の未亡人を無意味に殺した最強の暗殺者は、車で走り去る。

ハビエル・バルデム
さて、テキサスの人口はだいぶ減らしてやったけど、けっきょく頼まれた仕事は全部失敗か。これでは次回のパーマ代も払えんな。でもポジティブな気持ちさえ持っていれば、いずれ全ては

カルマ
(飲酒運転をしている)
しまった!

ハビエルの車に、いきなり横合いから別の車が激突!グシャグシャになった車から、ハビエルはよろめきながら脱出する。

通りがかりの子供
おじさん大丈夫?なんかすごく無理のある事故だよね、住宅地だから30キロ以上出せないのに、あの車はワープしたみたいなスピードで突っ込んでくるし。

ハビエル・バルデム
くそ、またもや御都合主義パワーを使い果たしたのが失敗だったな。勧善懲悪の法則が今頃やってきたのか。それとも、宇宙の無意味な偶然が、たまたま俺の物語の終わりを匂わせるものとしてやってきたのか。

通りがかりの子供
実は例の自慢のタイプライターの紙が切れたんで、この場面はコーマック・マッカーシーが紙の端っこにサインペンで書き殴っただけかもしれないよ。

ハビエル・バルデム
まったく今時のガキは生意気だな。ほれ、人を殺しまくって稼いだ金を百ドルやるから、警察が来ても俺のことは言うなよ。

通りがかりの子供
(即座に悪に染まり)
わーい!

屋内。トミーの家
最後にもう一度ジャンル的慣例を破って、コーエン兄弟は引退間際だった保安官を本当に無事引退させる。おかげで観客はトミーが妻と朝食をとっているところを見る羽目になる。

トミーの妻
気分はどう?

トミー・リー・ジョーンズ
老いぼれの役立たずってとこかな。

トミーの妻
わかるわー。あなたはずーっとダメ保安官だったけど、今はそれですらないもんね。

トミー・リー・ジョーンズ
昨夜夢を見た。山道で馬に乗った父が私を追い越していくんだが、牛の角に火種を入れて運びながら、闇の中に消えていくんだ。私もいずれ父の後を追うだろう、闇の中で小さな炎を燃やして。なぜなら、時に人生の中で我々の存在に意味を与えるのは、道義的かつぼんやりと比喩的な夜の恐怖しかないからだ。

トミーの妻
それは良かったわね。まあ玉子でも食べて元気出したら?