ジョン・ウィック


よくわかる脚本
By Alex W.

The Editing Room の原文はこちら。

フェードイン
どっかの倉庫

弾痕だらけでぼろぼろのSUVがフレームに入ってきて、荷揚げドックにぶつかって停まる。瀕死のキアヌ・リーブスがヨロヨロと降りてきて、倒れ込む。

キアヌ・リーブス
実を言うと、悪党どもが付けた傷は二、三箇所だけだ。あとは全部、ここ十四年間のおれの映画を見た観客にやられたのさ。
(iPhoneを取り出す)
いやあ、おれも車もボロボロなのにiPhoneは傷一つないなあ!直感的に操作できるタッチスクリーン・インタフェースのおかげで、気絶寸前のおれでも死んだ女房の動画に簡単アクセスだ!では事の起こりを振り返るとしよう…

屋外。回想
しあわせキアヌが運命の女性に出会い、結婚するが、何かの病気で彼女は死ぬ。いっそ風船で空を飛ぶ家でも建てようかとキアヌは一瞬考えるが、結局「暗い過去を背負った陰気な殺し屋」で行くことにする。

屋外。キアヌの家——まだ回想が続いている——だとすれば冒頭のシーンは「枠」としての機能が怪しくなってくるが、そういうことを気にする映画では多分ない。

しょんぼりキアヌが玄関で応対している。

配達人
奥さんが亡くなるのを待つ間、うちのオフィスでず〜〜っと放置されていた犬をお届けに上がりました。サインをお願いします。餌をやったほうがいいでしょうね。あと糞尿まみれなので洗ってやってください。何やら口から泡も吹いてますが、まあ大丈夫でしょう。

キアヌは犬を家に入れる。亡き妻への思いを象徴する超可愛い犬なので、そこらのタオルに寝かせて食べ残しのシリアルをやることにする。

屋外。空港
悲しいキアヌは、バリバリにチューンした愛車の古いムスタングを、友人が手配してくれた駐機場でブッ飛ばす!

キアヌ・リーブス
おれの超絶ドラテクを見れ!怒りと悲しみが疾走するぜ!明らかにこれは後半の凄いカーアクションへの伏線だぜ!

キアヌの友人
そうやって期待を持たせといて、あとは一度車をぶつける場面しかないんだよな。いやはや丁寧なキャラ造形だねえ…

屋内。キアヌの家——その夜更け

さびしいキアヌは犬に起こされる。階下に降りたキアヌは、ロシア系のごろつきアルフィー・アレンにいきなり頭を殴られる。

アルフィー・アレン
お前さー、昼間ガソリンスタンドで話しかけた時に、なんか愛想悪かったよな。だからヤキ入れに来たぜ!もうちょっと早く来たかったけど、エレベーターでおれを待たずにドア閉めがやった奴を殺してたら時間食っちまったんだよケケケケ!

アルフィーとロシア系ごろつき仲間はキアヌを叩きのめし、キアヌの犬を殺し、愛車を盗む。仕上げに、後腐れがないようにキアヌも殺す立ち去る。

屋内。ジョン・レグイザモの修理工場

痣だらけのしょんぼりキアヌが愛車を探しに来る。

ジョン・レグイザモ
ああ、例のロシアのクソガキがおれに車を売ろうとしたけど、おととい来いって言ってやったぜ。おれたち友達だからな!

キアヌ・リーブス
つまり、その時買い取ってれば今ここに車があったわけだ。でもあんたのおかげで車は行方不明だと。

ジョン・レグイザモ
あんときは「おれカッコいい!」って思ったんだけどなー

キアヌ・リーブス
(溜息をついて)
まあ少なくともこの方が、取り戻した時にスカッとするかな。『ゴーストハンターズ』(1986)のカート・ラッセルのトラックみたいなもん…って、あれは結局二度と帰ってこないんだっけ。

屋内。ミカエル・ニクヴィストの屋敷

本当はイギリス人なのにロシア系ごろつき役のアルフィー・アレンが、ロシアの犯罪王である父親のミカエル・ニクヴィストの部屋に通される。ディーン・ウィンターズも一応その場にいるが、まるで幻覚か幽霊のように存在感がない。

ミカエル・ニクヴィスト
息子よ、怒らせたそうだな…ジョン・ウィックを。
(恐怖でウンコを漏らす)

ディーン・ウィンターズ
ジョン・ウィックを?!?
(ウンコを漏らす)

アルフィー・アレン
ジョン・ウィックって誰だよ?

ミカエル・ニクヴィスト
誰だよってお前…!
(さらにウンコを漏らす)

ディーン・ウィンターズ
もうダメだああああああ!
(パンツ全体がウンコ色に染まる)

アルフィー・アレン
だから誰…

ミカエル・ニクヴィスト
(落ち着きを取り戻して)
キアヌが演じているキャラクターだ。いつもの私は人の名前を聞いただけで小腸と大腸と直腸の内容物を全部漏らしたりはしないが、漏らすときは大体ジョン・ウィックが絡んでいる。
(スーツ全体がウンコ色に染まる)
これから奴に電話して命乞いするから静かにしていろ。威厳と凄味のある悪役は必ずこれをやらんとな。

キアヌ・リーブス
(電話越しに)
悪いなミカエル。この映画は「『マトリックス』以来、キアヌの最高傑作!」が売り文句なんだ。まあここ14年間の作品は本当に酷かったから、それがどうしたって話だが。そんなわけで、今やめる訳にはいかない。

ミカエル・ニクヴィスト
分かった。
(服がウンコで爆発する)
そういうことなら、定石通り一山幾らの下っ端どもを送り込むところから始めようか。

屋内。キアヌの家

辛気臭いキアヌが、定石通り一山幾らの下っ端どもを迎え撃つ準備をしている。

下っ端ども
ようキアヌ!本作の特徴となる独特の戦闘スタイルを確立する手伝いに来たぜ!つまり中国武術を取り入れた…

キアヌは全員の頭を撃って殺す。

下っ端ども
(死んでいる)
遠慮のない奴…

覚悟を決めたキアヌは殺し屋稼業の道具を鞄に詰め、馴染みの死体処理業者に電話をする。

キアヌ・リーブス
(電話で)
もしもし、「ウォンの」「レストラン」かい?「予約」をしたいんだ。12人のパーティーだ。それぞれ好みのアピタイザーを注文したいんだが…要するに頭を撃たれてんだよ。アントレとデザートも、頭をブチ抜いちまったから要らない。というか暗号って基本的に面倒くさいよな?

屋内。高級ホテル

決然としたキアヌが大股にロビーを抜け、フロントにやって来る。

ランス・レディック
キアヌ様、お久しぶりです。超エリート国際暗殺者ホテルにようこそ。ご存知のとおり、当ホテルでは公認のエリート国際暗殺者通貨、すなわちマリオコインしか使えません。

キアヌ・リーブス
問題ない。おっと、一枚足りないな。
(空中に浮かんでいるブロックを小突く)
これでいいかい。

ランス・レディック
ホテル内での暴力が厳しく禁じられているのもご存知ですね。

キアヌ・リーブス
前から聞きたかったんだけどさ、ホテルから出る奴をつけていって、玄関のすぐ外で撃つのはいいわけ?殺すまでに何メートル離れればいいの?ホテルの中から外を歩いてる奴を撃つのは?

ランス・レディック
それはつまり…

キアヌ・リーブス
それから、このホテルって水道代や電気代をマリオコインで払ってるの?違うなら、普通の金はどこから手に入れるんだ?だいたい、殺し屋がいちいちコインのジャラジャラ入った巨大なスーツケースを持ち歩くより、PayPalでも使ったほうが…

ランス・レディック
(さえぎって)
どうか、考えすぎないようにお願いします。

屋内。ウィレム・デフォーの家

ミカエル・ニクヴィストが、やはりエリート国際暗殺者のウィレム・デフォーを訪ねる。

ミカエル・ニクヴィスト
ウィレム、ちょっとキアヌと揉めてるんだ。ほら、この映画のポスターでも「奴を爆発させるな」と言ってるだろ?で、おれの息子は爆発させやがった。

ウィレム・デフォー
(考えて)
厳密に言えば、ウィック(燈芯、導火線)そのものは爆発しないよな。導火線に火をつけると、爆薬に届くまで火が燃え進むけど、導火線そのものは爆発しない。

ミカエル・ニクヴィスト
だから考えすぎるなって言ってるだろ?あんたはキアヌの親友だから、あんたを雇ってキアヌを殺してもらおう。さあ行け!

屋内。グランド・ブタペスト・ホテル(銃撃戦あり)

イライラしているキアヌがイアン・マクシェーンに会う。

キアヌ・リーブス
おれを爆発させた男の情報をくれ。

イアン・マクシェーン
(考える)
しかし厳密に言えば…

キアヌ・リーブス
おれは自ら爆発する特別な導火線なんだよ、分かったか!アルフィー・アレンはどこにいる?

イアン・マクシェーン
レッド・サークルというクラブだ。たまたま色も形も銃で打ち抜かれた頭に似ている。

屋内。クラブ レッド・サークル

怒り狂うキアヌは150万トンの鉛を生産して世界最大の鉛の産出国になり、それを全てロシアン・マフィアの手下どもの頭に輸出する。しかしアルフィー・アレンは逃げ、結果としてストーリーは正確に0.0百万インチしか進まない。

屋内。超一流国際暗殺者ホテル

生傷だらけのキアヌは部屋に戻って休む。しかし近くのビルの屋上からウィレムが見ている!

ウィレム・デフォー
まずい、エイドリアン・パリッキがキアヌの寝込みを襲ってきたぞ!親友としてキアヌの頭のすぐ脇に弾を撃ち込んで警告してやらなければ!それ以外のどこを撃っても奴ってば鈍感だし。ましてエイドリアン本人を撃つなんて論外だよな!

エイドリアン・パリッキ
サプラーイズ!国際的に活躍する非情な暗殺者の中には一人ぐらいルールを破ってホテル内で殺しにくる奴がいてもいいわよね!

二人は戦う!キアヌが勝つ!

エイドリアン・パリッキ
畜生。今度は私が頭を撃たれる番かしら。

キアヌ・リーブス
いや、いつもは一瞬の迷いもなく人を殺すおれだが、君は情報収集とかそんな感じのよく分からない理由のために生かしておこう。

エイドリアン・パリッキ
えっとね、私が知ってるのは、ニクヴィストはお宝を全部教会に隠してるってことだよ。

キアヌ・リーブス
そりゃどうも。じゃあ君を殺さない理由は全てなくなったな。
(立ち去る)

屋内。教会
キアヌは厳しい表情で入っていき、僧侶が動こうとした瞬間に彼の膝をブチ抜く。さらに教会内の男全員の頭をブチ抜く。

キアヌ・リーブス
この教会で間違いないな?

僧侶
当たりだよ、運が良かったな。ついでに、手下が男ばかりでよかったな。そこらの無害そうな婆ちゃん連中が一人でも銃を持ってたら、あんた死んでるぞ。

キアヌ・リーブス
余計なお世話だ。おれが『96時間2』のリーアム・ニーソンのジョークをパクったのがバレる前に、隠し金庫に案内するんだ。

キアヌが隠し金庫の頭をブチ抜くと、ニクヴィストと手下どもが現れる。

キアヌ・リーブス
おれを爆発させたことを後悔させてやる!
(百万発の弾丸を放つ)

手下ども
だから導火線は爆発しないつってるだろ!辞書引けよ!
(百万と一発の弾丸を放つ)

キアヌ・リーブス
うるせえバカおれの無限の弾丸こそが辞書だ!
(百万と二発の弾丸を放つ)


ミカエル・ニクヴィスト
ええい、お前なんぞ一発で十分だ。でっかい弾丸をくれてやる。喰らえ、SUV弾!
(SUVでキアヌに突っ込む)

屋内。プラスチックシートの部屋

ぼろぼろのキアヌが目をさますと、椅子に縛られている。

キアヌ・リーブス
いてて。おれは何故まだ生きてるんだ?なんかこう、ジャンルをひっくり返すような独創的な説明を頼むぜ。間違っても「冥土の土産に」とかそういう古臭いのは…

ミカエル・ニクヴィスト
冥土冥土冥土!土産土産土産!以上説明終わり!死ね。
(立ち去る)

いよいよ絶体絶命と見えた時、近くの建物の屋上から、ウィレム・デフォーの銃弾がキアヌを救う!

ウィレム・デフォー
例のピーターなんたらいうガキが、やたらと屋根に登っては人助けをしたがる気持ちが分かってきたぜ。なんかこれ楽しいな!

キアヌは血路を開いて脱出し、車の上に立つことでニクヴィストを捕まえる!

キアヌ・リーブス
あっけないな。あんたがラスボスなのに、こんな簡単に捕まっちゃっていいのか?もう映画終わり?

ミカエル・ニクヴィスト
最終決戦はもっと先だと思ってたから、私も油断していたよ。つまりその、あんたがアルフィー・アレンを殺す。おれはウィレムを殺させる。で、最終対決って段取りかなと。

キアヌ・リーブス
ああ、それでいこう。あ、エイドリアンはどうする?

ミカエル・ニクヴィスト
あのキャラは超クソゲロ強という設定だから、イアンの罠にはまって、ボサーッと立ってるところを撃たれることにしよう。

キアヌ・リーブス
ハードなアクション映画にしちゃしょぼいオチだな。そんなヌルいのやってると、Agents of SHIELD からお呼びがかかって…

エイドリアン・パリッキ
待ってよ、あのシリーズはウィンター・ソルジャー以降ずいぶんマシに…
(撃たれる)

屋外。ドック

ミカエル・ニクヴィストが、逃走用のヘリを目指して車を走らせる。しかしキアヌが現れて、横からガンガン車をぶつける。

ミカエル・ニクヴィスト
なんだこの1970年代のテレビの警官モノみたいな安いクライマックスは!

ディーン・ウィンターズ
ご心配なく、キアヌは私が始末しましょう。メイヘムの通り名は伊達じゃない!あ、でも割としょうもないところで使う言葉か。例のコマーシャルとか…

キアヌ・リーブス
あんたこの映画に出てたっけ?これが初登場だよな?

ディーン・ウィンターズ
いやいやいやいやいや、ずっといたよ!ほら、ミカエルと一緒にウンコ漏らしてたじゃないか!思い出した?

キアヌ・リーブス
知るか。
(ディーンを殺す)

キアヌとミカエルはいよいよ最後のナイフ対決に臨む!

キアヌ・リーブス
というわけで俺は史上最強の男、一方あんたはずっと偉そうにしてただけでろくに動いてない。ちょっとハンデをつけてやるか。
(くまちゃん型グミキャンデーに変身する)

ミカエル・ニクヴィスト
ぐはっ、それでも負けたー!私の必殺技「手下どもに全部やらせる」が発動しないとは!あ、もう全員死んでるのか。つまりその、あそこで呑気にヘリを準備してる連中以外はってことだ!まったく役立たずめ。
(死ぬ)

キアヌ・リーブス
(人間に戻る)
ふっ、なかなかの激闘だったぜ。じゃあ回想前の枠に戻ろうか?

屋外。回想前の枠

半死半生のキアヌが動画を見ている。

キアヌ・リーブス
サプラーイズ!瀕死の重傷と見せて実は命に別状ないぜ!あとは生きる意志の源が必要なだけさ!

キアヌは倉庫の中で犬舎を見つけて犬を盗み出す。


あのー、この映画って、うっかり誰かの飼い犬に手を出すと大変なことになるって話だったんじゃ…

キアヌ・リーブス
細かいことは気にすんな!嗚呼、おれが守るべき新しい命――たとえただのペットであっても――もう死んでる場合じゃないぜ!

『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』のナタリー・ポートマン
どうせ私は根性ないわよ。