銭湯に行ったら例のごとく空いていて先客は「落書き男」だけでした。べつに面識があるわけではないのですが、彼の左肩に実にいい加減な入れ墨がしてあるので憶えてしまったのです。手抜きというか意味不明というか、とにかく左の肩胛骨のあたりに、マッチ棒みたいな何本かの短い直線と、蚊取線香みたいな渦巻が一つ、よく言えばアフリカの民族芸術、悪く言えば子供の落書きみたいに緑色の線で書き散らしてある。いつも工場の作業服みたいなものを着てくるから少なくとも今はカタギの人みたいだし、湯上がりに週刊誌を熱心かつ気楽そうに読んでいるところを見ると外国から出稼ぎに来てるわけでもない。どこからどう見ても普通の日本のおっさんなのに、入れ墨だけが謎。

 謎といえば、水曜の夜遅くには「爪痕オヤジ」が来ます。こちらもごく普通のショボくれたおっさんなのですが、よく背中の左右に四本ずつ、深々と八の字型の見事な爪痕がついているのです。理由を色々考えたのですが、どれもイマイチ。

その1 すごく背中がかゆかった。

その2 絶倫。もしくは相手が。(あのショボくれかたはつまり…)

その3 じつは「クマ殺しの鉄」と呼ばれている。

「その1」は角度的にちょっと無理があるし、「その3」なら背中だけで済むはずがない。だとすれば…ぬう…