うす赤いメロンの果肉の色が宵闇に溶けてゆくグラデーションの途中に薄荷のお菓子みたいな円い月がしらじらと引っかかっている惑星の夕暮れ、発光しはじめる商店街を抜けて銭湯に行くのだ。片腕の神様が両掌をぽんと打ち合わせるたび、世界は出来そこないの宝石のようにころんと生まれでる。ぽん、ころり。ぽん、ころり。「ぽん」の残響はいまでも宇宙に響いていて、その証拠に夕暮れにはいつもコントラバスの低い歌声が聞こえるのだ。ころりん!私が落っことした十円玉を番台の前で捕獲したのは幼児の足の指という生き物。

 

 湯気。空気中に充満した水滴は音の距離感を失わせる。泡立つ水。流れる水。溢れる水。はじける水。交響する水の音壁。老人たちがいつまでも湯船に浸かっているのは、羊水の海を思い出そうとしているからに違いない。「む…」「をぅ…」閉じた目と開かれた口から空気とともに流れ出るのは、さっき外で聴いたのと同じ暮れてゆく星の歌。なにもガンジスのほとりまで行く必要はない。我が町内には「柳湯」がある。

 

 暖簾の外はもう冷んやりと暮れているが、大気はまだ日中の精気を保ったまま振動している。分子の一つ一つが、髪から水分と熱を攫っていく。皮膚の細胞たちが、独立して呼吸を始める。学校帰りの少女が二人、歌いながら通り過ぎた。偶然に生まれた世界に、歌は必然。うたはうたかた、生まれて消えて、時の涯までどんぶらこ。命みじかし、恋せよ宇宙…