仮想温泉再開ノ事

いきなりだが、恥辱プレイと放置プレイは、どちらが強いのだろう?

あれは確か一昨年の三月頃、なんとなくウェブホスティングの料金を払いそびれているうちにサイトにアクセスできなくなった。払いそびれたのには理由が無くもない。今世紀初頭に契約したときには格安だったホスティングサービスが、おそらくは経営者も代わり商売が傾くにつれ、料金だけは詐欺のように高くなっていた。費用対効果なぞに頭の回る客筋はとうの昔に離れたに相違なく、かくなる上は最低限のサービスだけ維持しつつ料金を上げ続け、いまさら引っ越しも面倒だと思っている私のような一握りのズボラな客を相手に根比べだか心中だかを挑む肚と見えた。私にとってはこの、一年に一度料金を払うシステムというのが曲者で、毎年春先には篦棒な額の請求書が来て跳び上がり、そもそもロクに更新もしないサイトに金を捨て続ける自分のだらしなさに気が滅入り、それでも次回までには一年もあるのだからその間に絶対にまともな引越し先を見つけてやる!と意気込むものの、気がつけばまた冬が去り、雪解けとともに次の請求書が…という堂々巡りを、私はおそらく十年以上繰り返していたのだ。

そうこうするうちに、かつて勢いで買ったドメインネーム (kasouonsen.com) も売りに出され、それがタチの悪い業者に買い取られたようだ。数カ月後、また kasouonsen.com にアクセスできるようになったと思ったら、この業者は私のサイトの内容にギトギトしたネオンカラーの広告バナーを大量に貼り付けてそのまま公開しやがったのである。ドメインの権利はともかく、私の著作権はどこに行ったのだろう?そうやって不本意な形でサイトを晒しものにしておけば作者なり管理者なりが大枚はたいてドメイン名を買い戻しに来るのをアテにした人質商法なのだろうか。しかし残念ながら私にはそういう作り手としての良心が欠けており、それ以上に悪徳業者に餌をやって肥らせるのは大変に気分が悪かったので、かわりに自分の得意技を更に極めることにした――すなわち「放置」である。放置パワー全開で一年が過ぎたころ(いや時々覗きに行ってはいたのだが)、例の悪徳業者も私の冷血ぶりに気づいたのか、それとも更に格下の業者に売り飛ばしたのか、kasouonsen.com に行くと「現在入れません」みたいな一文が中国語でそっけなく表示されるだけになった。どうやら一年がかりで引き絞ったワザが効いていると判断した私は、さらに一年、放置を決め込んだ。ここで奴らはとうとう諦めたらしく、最近 kasouonsen.com は再び空き家となり、古巣に戻った私は久しぶりに「何かに勝った」気分を味わうことが出来たのだが、よく考えたら身から出た錆を自分で舐めて「やっぱり錆の味がする」と言っているようなものである。取り戻してどうしたいのか、それは自分でも分からない。「どうせ十年に一度しか更新しないくせに」と以前の私なら苦笑して終わりだったが、今や十年後、いや五年後に生きているかどうかさえ怪しい年齢である。深く考えると嫌になるので、あまり考えずになにか書くことにしよう。